モスバーガーのマーケティングで面白いのは、ファストフードなのに「速さ」だけで勝負しなかったところです。ハンバーガーチェーンといえば、早い、安い、手軽。このイメージが強いですよね。でもモスバーガーは、そこに真正面から乗らなかった。
むしろ、注文を受けてから作る。素材にこだわる。少し待ってでも食べたいと思われる商品を出す。そんな方向に進みました。
普通に考えれば、不利です。
ファストフードなのに時間がかかる。
大手より安いわけでもない。
店舗数や知名度で圧倒できるわけでもない。
それでも、モスバーガーは消えませんでした。むしろ「モスはモス」として、独自のポジションを作りました。
なぜ、モスバーガーは速さを捨てても選ばれたのか。
答えは、勝てない土俵で戦うのをやめたからです。
マクドナルドと同じ土俵では勝てなかった
モスバーガーは、1972年に東京都板橋区成増で実験店を開き、同年6月に1号店「成増店」をオープンしました。創業者は櫻田慧さんです。
当時のハンバーガー市場には、すでにマクドナルドという巨大な存在がありました。
マクドナルドは、安く、早く、どこでも同じ味を提供することに強いブランドです。資本力、店舗展開、知名度、オペレーションの仕組み。どれを見ても、小さな新興チェーンが同じ土俵で勝つのは簡単ではありません。
もしモスバーガーが、マクドナルドと同じように「早さ」と「安さ」だけで戦っていたらどうなっていたか。
おそらく、かなり苦しかったはずです。
安さで比べられる。
提供スピードで比べられる。
店舗数で比べられる。
知名度で比べられる。
つまり、お客さんの頭の中で「マクドナルドと比べてどうか」という比較に巻き込まれます。
この勝負は、後発の小さなブランドにとって不利です。
だからこそ、モスバーガーは別の選ばれ方を作る必要がありました。
モスバーガーは「速さ」より「品質」を選んだ
モスバーガーの特徴のひとつが、注文を受けてから商品を作るアフターオーダー方式です。モス公式noteでも、ご注文を受けてから一つひとつ商品を作る方式を取り入れていることが紹介されています。
これは、ファストフードとしては不利に見えます。
なぜなら、注文してから作るということは、どうしても提供までに時間がかかるからです。
お客さんから見れば、「遅い」と感じることもあります。
実際、モス公式noteでも、モスに対する印象として「注文してから提供に時間がかかる」と感じる声があることに触れられています。
でも、ここが面白い。
モスバーガーは、その弱点を完全に消そうとしたのではありません。
むしろ、「時間がかかるけれど、作りたてを食べられる」という価値に変えました。
早く出すことより、できたてのおいしさを届けること。
安さより、素材や味への納得感。
手軽さより、少し待ってでも食べたい満足感。
つまり、モスバーガーは「ファストフードなのに遅い店」ではなく、「作りたてを出すハンバーガー店」として見え方を変えたのです。
遅い・高いが、逆に選ばれる理由になった
普通なら、遅いことや高いことは弱点です。
でも、マーケティングでは弱点がそのまま強みになることがあります。
たとえば、注文を受けてから作るから時間がかかる。
これは一見するとデメリットです。
でも見方を変えると、「作り置きではない」「できたて」「手間をかけている」という価値になります。
価格も同じです。
安さだけを求める人から見ると、モスバーガーは高く感じるかもしれません。
でも、「ちゃんとしたものを食べたい」「野菜やソースにこだわりたい」「少し高くても満足感がほしい」という人から見ると、その価格は納得につながります。
これは、価格が価値の見え方を変える話にも近いです。
なぜ、売れなかった宝石は「価格を2倍」にした途端に売れたのか?
もちろん、モスバーガーは単に高くしたから選ばれたわけではありません。
時間がかかる理由。
価格が高くなる理由。
それを支える商品品質。
この3つがあるから、「遅い」「高い」がただの不満ではなく、選ばれる理由に変わったのです。
競合と違う土俵を作ると比較されなくなる
モスバーガーの戦略で学べるのは、競合に勝つ方法は「同じ場所で勝つこと」だけではないということです。
むしろ、強い競合がいる場合は、同じ土俵で戦わないほうがいいことがあります。
マクドナルドが「早い・安い・便利」で強いなら、そこで正面衝突しない。
モスバーガーは、「少し待ってでも食べたい」「素材や味に納得できる」「作りたて感がある」という別の選ばれ方を作りました。
すると、お客さんの中で比較の軸が変わります。
「安いからマック」
「早いからマック」
「でも、今日はモスが食べたい」
この状態になると、モスバーガーはマクドナルドの劣化版ではなくなります。
別の欲求を満たすブランドになる。
これはかなり強いポジションです。
無印良品も同じです。無印良品は、激安でも派手でもありません。それでも「これでいい」と自然に納得されるブランド設計によって選ばれています。
コストコも、普通のスーパーとは違います。商品を買う前に年会費を払うという一見ハードルのある仕組みを、会員として通う理由に変えています。
どれも共通しているのは、真正面から安さや便利さだけで戦っていないことです。
自分たちが選ばれる理由を、別の場所に作っているのです。
「やらないこと」を決めるとブランドは強くなる
モスバーガーは、すべてを取りにいったわけではありません。
最速を目指す。
最安を目指す。
どこにでもある店を目指す。
この全部を追いかけるのではなく、作りたてや品質に重心を置いた。
これは、言い換えると「やらないこと」を決めたということです。
早さで一番を取りにいかない。
安さだけで選ばれようとしない。
大量生産の効率だけに寄せない。
そう決めたからこそ、モスバーガーらしさが生まれました。
マーケティングでは、何をやるか以上に、何をやらないかが大事になることがあります。
全部の人に選ばれようとすると、特徴がぼやけます。
安い、早い、うまい、高級、便利、手作り感、こだわり。
全部を言いたくなる。
でも、全部を言うと、結局何の店なのか分からなくなります。
モスバーガーは、「少し待ってでも食べたい」という方向に絞ったからこそ、記憶に残るブランドになったのです。
この事例から分かること
モスバーガーのマーケティングから分かるのは、勝てない土俵で頑張り続ける必要はないということです。
競合が強いなら、同じ武器で戦わない。
相手が安さで強いなら、安さ以外の理由を作る。
速さ以外の価値を作る。
相手が規模で強いなら、小さくても選ばれる理由を作る。
モスバーガーは、速さを捨てたのではありません。
速さで選ばれる勝負をやめたのです。
そして、「少し待ってでも食べたい」という別の選ばれ方を作りました。
売れる商品には、必ず理由があります。
その理由は、何を足すかではなく、何をやらないと決めたかに隠れていることもあります。
モスバーガーは、ファストフードの常識にそのまま乗らず、自分たちが勝てる場所を作った。
だから、巨大な競合がいる市場でも、独自のブランドとして生き残れたのです。


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