売れない商品があった時、普通ならまず値下げを考えます。半額にする。セールに出す。お得感を出す。多くの人は、安くすれば売れやすくなると思うはずです。
ところが、あるお土産屋さんでは、まったく逆のことが起こりました。
売れ残っていた青い宝石を、値下げするどころか、価格を2倍にした途端に売れ始めたのです。しかも、少し売れたのではありません。それまで棚に残り続けていた商品が、あっという間に売り切れました。
普通に考えると、おかしな話です。売れないから安くするなら分かります。でも、売れない商品を高くしたら売れた。なぜ、そんなことが起きたのでしょうか。
この話のカギは、商品の中身ではありません。お客さんがその商品をどう見たかです。
人は、よく分からない商品を選ぶ時、意外と中身を細かく見ていません。特に、宝石、ワイン、ブランド品、専門サービスのように、素人が品質を判断しにくいものほど、分かりやすい目印に頼ります。
その目印のひとつが、価格です。
つまり、この宝石は価格を2倍にしたことで、「安くても売れない商品」から「きっと価値がある商品」に見え方が変わったのです。ここには、人が無意識に持っている「高いものは良いもの」という判断が関係しています。
売れなかった宝石が、値上げで売れた
この話は、心理学者ロバート・チャルディーニの『影響力の武器』で紹介されている有名なエピソードです。
あるお土産屋さんで、ターコイズのジュエリーが売れ残っていました。品質が悪いわけではありません。お客さんも来ている。店内に置いてある。スタッフもすすめている。それなのに、なぜか売れない。
店主は困りました。
そこで、もう半額にしてでも売り切ろうと考えます。スタッフに「価格を2分の1にして」とメモを残しました。
ところが、ここでまさかのミスが起こります。
スタッフが「2分の1」を「2倍」と読み間違え、値段を下げるどころか、2倍にして売ってしまったのです。
普通なら大失敗です。
ただでさえ売れていない商品を、さらに高くした。売れるわけがない。そう思いますよね。
ところが結果は逆でした。
売れ残っていたターコイズのジュエリーは、価格を2倍にした途端に売れ始め、最終的に売り切れたのです。
変わったのは商品ではなく「見え方」だった
ここで大事なのは、商品そのものは何も変わっていないことです。
宝石の品質が上がったわけではありません。デザインが変わったわけでもありません。陳列が劇的に変わったわけでもありません。店員の説明が急に上手くなったわけでもありません。
変わったのは価格だけです。
でも、その価格が変わったことで、お客さんの受け取り方が変わりました。
安く売られている時は、「なぜこんなに安いんだろう」「あまり良くないものなのかな」と思われていたかもしれません。
でも、価格が2倍になると見え方が変わります。
「それなりに価値がある宝石なのかもしれない」
「高いということは、良いものなのかもしれない」
「旅行先で買うなら、少し良いものを選びたい」
こう感じる人が出てきた可能性があります。
つまり、価格が価値のサインになったのです。
人は詳しくない商品ほど価格で判断する
もしお客さんがターコイズに詳しければ、価格だけで判断しなかったかもしれません。
石の質、色の深さ、加工の技術、産地、デザイン。そういった情報を見て、「この価格は高い」「これは安い」と判断できたはずです。
でも、多くの観光客や一般のお客さんは、宝石の品質を細かく見分けられるわけではありません。
そうなると、分かりやすい判断材料に頼ります。
そのひとつが価格です。
安い商品を見ると、「安い理由があるのかな」と感じる。高い商品を見ると、「きっと良いものなのだろう」と感じる。
これが「高いものは良いもの」という判断です。
もちろん、冷静に考えれば、価格が高いから必ず品質が良いとは限りません。でも、人はすべての商品を細かく調べてから買うわけではありません。よく分からないものほど、価格、見た目、ブランド、口コミのような分かりやすい情報に頼ります。
ターコイズのジュエリーは、価格が2倍になったことで「安くても売れない宝石」ではなく、「価値がありそうな宝石」に見えたのです。
安すぎると「価値が低い」と思われることがある
売れない時、多くの人は値下げを考えます。
安くすれば売れる。お得にすれば選ばれる。価格を下げれば買いやすくなる。
もちろん、これは間違いではありません。日用品や価格比較されやすい商品なら、安さは強い武器になります。
でも、すべての商品で安さが正解とは限りません。
特に、品質を判断しにくい商品では、安すぎることが不安につながることがあります。
宝石が安すぎると、「本当に大丈夫かな」と思われる。高級ワインが安すぎると、「何か理由があるのかな」と感じられる。コンサルや講座が安すぎると、「本当に成果が出るのかな」と疑われる。
つまり、価格は単なる負担ではありません。
お客さんに「どれくらい価値がありそうか」を伝えるメッセージでもあるのです。
これは、1本11万円のウイスキーがたった4分で完売した理由にも通じます。高額商品は、ただ高いだけでは売れません。けれど、価格に見合うストーリーや希少性が伝わると、価格そのものが価値を強めることがあります。
値上げは悪ではなく、見え方を変える手段になる
価格を上げることに抵抗がある人は多いです。
高くしたら売れなくなるのではないか。お客さんに嫌がられるのではないか。ライバルより高いと不利になるのではないか。
そう考えるのは自然です。
でも、価格を上げることで、商品の見え方が変わることもあります。
安い商品に見えていたものが、高品質な商品に見える。よくある商品に見えていたものが、特別な商品に見える。簡単に買えるものに見えていたものが、慎重に選ぶべきものに見える。
もちろん、ただ値上げすれば何でも売れるわけではありません。
価格を上げるなら、その価格に見合う理由が必要です。
なぜ高いのか。
今買うべきなのか。なぜ他ではなくこれなのか。
ここが伝わっていなければ、ただ高いだけの商品になります。
でも、価格に理由があり、見せ方が整っているなら、値上げは価値を伝える手段になります。
これは、鼻セレブが名前を変えただけで売れた理由にも似ています。鼻セレブは、単なる保湿ティッシュではなく「鼻をいたわるちょっと贅沢なティッシュ」として見え方を変えました。価格も名前も、商品の価値をどう見せるかに関わっているのです。
コストコの年会費も「価値の見せ方」を作っている
価格は、商品の価値だけでなく、関係性も作ります。
たとえば、コストコは商品を買う前に年会費を払ってもらいます。
普通なら「買う前にお金を払うなんて面倒」と思われそうです。でも、年会費を払うことで、お客さんは「せっかく会員になったから行こう」「元を取りたい」と感じます。
つまり、価格が行動の理由になります。
コストコの年会費ビジネスモデルも、価格がただの支払いではなく、会員として通う理由を作っている事例です。
宝石の話とは少し違いますが、共通しているのは、価格が単なる数字ではないということです。
価格は、お客さんの見え方や行動を変える力を持っています。
この事例から分かること
売れなかった宝石が価格を2倍にした途端に売れた理由から分かるのは、価格はただの数字ではないということです。
価格は、お客さんが価値を判断するための情報です。
特に、品質が分かりにくい商品では、価格が大きな判断材料になります。
安いから売れるとは限りません。安すぎることで、逆に価値が低く見えることもあります。
高いから売れないとも限りません。価格に理由があり、見せ方が整っていれば、高さが価値を伝えることもあります。
ただし、大事なのは値上げだけを真似しないことです。
価格を上げれば何でも売れるわけではありません。
必要なのは、価格に見合う理由です。
ストーリー、希少性、実績、専門性、ブランド感、使った後に得られる未来。これらがあって初めて、高い価格は価値として受け取られます。
売れる商品には、必ず理由があります。
そしてその理由は、商品の中身だけでなく、「いくらで売られているか」にも隠されています。
価格は、価値を伝えるコピーでもあるのです。


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