ウイスキーのマーケティングで面白い事例があります。キリンビールが販売した、1本11万円の高額ウイスキーです。世の中には数千円で買えるウイスキーもたくさんあります。その中で、11万円という価格は決して安くありません。
普通に考えれば、「高すぎる」と感じる人がいても不思議ではない価格です。
ところが、このウイスキーは販売開始からたった4分で完売しました。用意されていた本数は2,500本。つまり、かなり高額な商品にもかかわらず、一瞬で多くの人が購入したということです。
では、なぜここまで売れたのでしょうか。
理由は、ただ高級なウイスキーだったからではありません。キリンが売ったのは、ウイスキーそのものだけではなく、「20年後の物語」だったからです。
ただの高級ウイスキーではなく、20年後に届く体験だった
このウイスキーの特徴は、買ってすぐにフルボトルが届く商品ではなかったことです。
購入後、3年後、7年後、10年後、13年後、16年後に、熟成途中のウイスキーが小瓶で届きます。そして20年後に、熟成を終えたフルボトルが届く。つまり購入者は、20年間かけてウイスキーの変化を少しずつ楽しめる設計になっていました。
ここが普通のウイスキーとは大きく違います。
一般的なウイスキーなら、買ったあとに好きなタイミングで飲むだけです。しかし、この商品は「買って終わり」ではありません。20年という時間をかけて、ウイスキーが育っていく過程まで楽しめる商品でした。
つまり、商品はボトル1本ではなく、20年間続く体験だったのです。
子どもの成長とウイスキーの熟成が重なった
この商品の魅力は、20年という時間の長さにあります。
たとえば、子どもが生まれたタイミングでこのウイスキーを買った親なら、子どもの成長とウイスキーの熟成を重ねて考えることができます。
3年後には、子どもが少し話せるようになっているかもしれません。7年後には、小学校に通っているかもしれません。10年後には、少し親離れしているかもしれません。13年後、16年後と時間が流れ、20年後には成人した子どもと一緒にグラスを傾ける日が来るかもしれません。
そう考えると、このウイスキーは単なるお酒ではなくなります。
家族の時間を記録するもの。子どもの成長を待つもの。20年後に思い出を語るきっかけになるもの。そんな意味を持つ商品になります。
「20年熟成のウイスキーです」と言われるのと、「20年後、成人した子どもと思い出を語りながら飲むウイスキーです」と言われるのでは、受け取る印象がまったく違います。
前者は商品の説明です。後者は、未来の場面です。
この違いが、11万円という価格でも欲しいと思われた大きな理由です。
高額商品は、価格ではなく意味で選ばれることがある
11万円のウイスキーと聞くと、多くの人は「高い」と感じます。
しかし、人は必ずしも価格だけで商品を判断しているわけではありません。その商品を買うことで、どんな時間が生まれるのか。どんな思い出が残るのか。誰と、どんな場面で使うのか。そこまで想像できたとき、商品はただのモノではなくなります。
今回のウイスキーも同じです。
もし「高級ウイスキーです」「限定2,500本です」「20年熟成です」とだけ伝えていたら、ここまで強く人の心を動かせなかったかもしれません。
しかし、「20年後に成人した子どもと一緒に飲む」という未来が見えると、商品に感情が宿ります。
お客さんは、ウイスキーの液体だけにお金を払ったのではありません。20年後の親子の時間、家族の記憶、人生の節目にお金を払ったとも言えます。
ここに、高額商品が売れる理由があります。
高い商品ほど、ただ機能や品質を説明するだけでは足りません。なぜその価格なのか。なぜ自分に必要なのか。買うことでどんな意味が生まれるのか。そこが伝わったとき、高額商品でも選ばれる可能性が出てきます。
ストーリーがあると、価格だけで比べられにくくなる
ウイスキーを単なるお酒として見れば、他にも安い商品はいくらでもあります。数千円のウイスキーもありますし、数万円のウイスキーもあります。
その中で11万円の商品を選んでもらうには、価格以上の意味が必要です。
この商品が強かったのは、ストーリーがあったことです。
20年待つ。途中で熟成の変化を味わう。最後にフルボトルが届く。子どもの成長や家族の時間と重なる。こうした物語があることで、他のウイスキーとは比べにくい商品になりました。
ストーリーがある商品は、単純な価格比較から抜け出しやすくなります。
もちろん、誰にでも売れるわけではありません。お酒に興味がない人、20年後の体験に価値を感じない人には刺さらないでしょう。
しかし、そのストーリーに強く共感する人にとっては、他の商品では代わりにならない特別な存在になります。
つまり、このウイスキーは「万人向けの商品」ではなく、「この物語に価値を感じる人」に向けた商品だったのです。
この事例から分かること
キリンの1本11万円のウイスキーが4分で完売した理由は、単に高級なお酒だったからではありません。
大きな理由は、ウイスキーに「20年後の物語」を与えたことです。
商品そのものはウイスキーです。しかし、その見せ方は「お酒を売る」ではありませんでした。20年後の親子の時間を売る。家族の記憶を売る。未来の思い出を予約する。そんな商品として設計されていたのです。
商品は、機能や品質だけで選ばれるわけではありません。
どんな意味を持つのか。どんな場面で使われるのか。誰との時間を作るのか。そこまで伝わると、商品の価値は大きく変わります。
このウイスキーの事例は、商品価値は中身だけで決まるわけではないことを教えてくれます。
同じ商品でも、どう見せるか。どんな物語と一緒に届けるか。どんな未来を想像させるか。
それによって、価格の受け取られ方は変わります。
キリンが売ったのは、ウイスキーではなく「20年後の物語」だった。
だから、1本11万円でも、多くの人が欲しいと思ったのです。
ウイスキーのマーケティングで面白い事例があります。キリンビールが販売した、1本11万円の高額ウイスキーです。世の中には数千円で買えるウイスキーもたくさんあります。その中で、11万円という価格は決して安くありません。
普通に考えれば、「高すぎる」と感じる人がいても不思議ではない価格です。
ところが、このウイスキーは販売開始からたった4分で完売しました。用意されていた本数は2,500本。つまり、かなり高額な商品にもかかわらず、一瞬で多くの人が購入したということです。
では、なぜここまで売れたのでしょうか。
理由は、ただ高級なウイスキーだったからではありません。キリンが売ったのは、ウイスキーそのものだけではなく、「20年後の物語」だったからです。

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