たった150円ほどの中古品が、約18,000円で売れた事例があります。
しかも、商品そのものを磨き直したわけではありません。高級ブランドのロゴをつけたわけでもなく、特別な機能を追加したわけでもありません。変わったのは、そこにストーリーが加わったことだけでした。
この話は、ストーリーテリングで商品価値が変わることを示した有名な実験「Significant Objects」の中に出てきます。Significant Objectsとは、リサイクルショップなどで安く買った中古品に、プロの作家が架空のストーリーを添えて、eBayで販売するというプロジェクトです。
その中に、木でできたボトルがありました。元の価格は1.49ドル。日本円で考えると、だいたい150円ほどの安い中古品です。しかし、このボトルにChristine Hill氏による物語を添えて販売したところ、最終的に126.39ドルで落札されました。ざっくり円換算すると、約18,000円です。価格にして、約85倍。普通に考えると、なかなか信じられない数字です。
では、なぜそんなことが起きたのか。結論から言えば、人は商品そのものだけを買っているわけではないからです。人は、その商品に込められた意味や背景、自分の中で広がる想像にも価値を感じます。つまり、ストーリーは商品に「欲しい理由」を作るのです。
ストーリーテリングで商品価値が変わる有名な実験
Significant Objectsの面白いところは、売られた商品がもともと高価なものではなかったことです。骨董品として価値があるわけでもなく、有名人が使っていたわけでもありません。職人の一点物として売られたわけでもありませんでした。
実験で使われたのは、リサイクルショップやフリーマーケットで見つけたような小さな中古品です。置物、カップ、人形、飾り物、よく分からない小物など、普通なら数百円でも「いらない」と思われるようなものも多く含まれていました。
しかし、それらに作家が架空の物語をつけると、見え方が変わります。ただの中古品ではなく、「何かがあった物」に見えてくるのです。
ここで大事なのは、ストーリーが商品の機能を説明しているわけではないことです。「このボトルは木製です」「インテリアに使えます」「古い雰囲気があります」と説明しただけでは、ここまで高く売れなかったはずです。
人が反応したのは、商品のスペックではありません。その商品にまつわる物語でした。
この「意味が価値を変える」という点では、なぜ、1本11万円もするウイスキーが、たった4分で完売したのか?の事例にも通じます。高額商品が売れる背景には、味やスペックだけでなく、「なぜそれが特別なのか」という物語があるからです。
木のボトルには、どんなストーリーがつけられたのか?
では、その木のボトルには、どんなストーリーがつけられていたのでしょうか。
内容は、派手な冒険物語ではありません。王様が使っていたとか、歴史的事件に関わっていたとか、そういう分かりやすい価値づけでもありませんでした。
描かれていたのは、ある女性と「M」と呼ばれる男性との暮らしです。
最初は、ただ扱いにくいボトルだった
Mは、ある日、街で木製のボトルを買ってきます。女性は、そのボトルを家の中に置くことについて、彼と少し言い合いになります。
最初は冷蔵庫に入れる飲み物の容器として使っていました。しかし、ジュースもアイスティーもドレッシングも、なぜか木の味がしてしまいます。結局、そのボトルは実用品としてではなく、リビングに置かれる飾りのような存在になります。
ある日、2人がけんかをした後、女性が夜遅く家に帰ると、そのボトルはベッドの横に置かれていました。そこには、小さなピンクの花が一輪だけ挿してありました。
ただの木のボトルが、仲直りのサインのように使われていたのです。
記憶を閉じ込める入れ物になった
ここまでなら、少し切ない恋人同士の話で終わります。しかし、この物語はそれだけでは終わりません。
女性はその後、Mに「ボトルは変な匂いがし始めた」と言います。そして実は、そのボトルをこっそり隠してしまうのです。さらに彼女は、その中に過去に愛した男性たちの名前を書いた小さな紙を入れていきます。
彼らがどんな匂いだったか。どうやって自分の人生に現れたか。自分をどんなふうに傷つけたか。そうした記憶を、まるで逆向きのおみくじのようにボトルへ入れていきます。
最後には、Mの名前を書く紙のことまで、頭の中で考え始めます。
つまり、この木のボトルは、ただの飾りではなくなったのです。恋愛、記憶、秘密、怒り、未練、別れの予感。そういう感情を閉じ込める入れ物として描かれていました。
このストーリーを読んだ後に木のボトルを見ると、もう「ただの中古品」には見えません。何かを抱えた物に見えてきます。誰かの過去が入っていそうな物に見えてきます。そこに、人は価値を感じるのです。
価値は商品の中だけにあるわけではない
この事例から分かるのは、価値は商品の中だけにあるわけではないということです。
もちろん、商品の質は大事です。品質が悪ければ、長く売れません。お客さんの期待を裏切れば、信用も失います。だから、商品そのものを磨くことは大前提です。
ただ、それだけでは足りないことがあります。
価値が見えなければ、普通の商品に見える
どれだけ良い商品でも、その価値が伝わらなければ売れません。どれだけ想いを込めて作っても、その背景が見えなければ、お客さんには普通の商品に見えてしまいます。
特に、講座、コンサル、整体、スピリチュアル商品、セミナー、教材、サービスのように、買う前に価値が分かりにくい商品ほど、ストーリーは重要になります。
「何を提供しているか」だけを説明すると、比較されます。
でも、「なぜそれを作ったのか」「どんな人に必要なのか」「それを使った人の人生にどんな変化があるのか」まで語れると、商品はただの機能ではなくなります。
背景があると、同じ商品でも違って見える
たとえば、整体なら「腰痛改善」だけでは、他の整体院と比べられます。しかし、「昔、自分の母が腰痛で苦しんでいて、何もしてあげられなかった後悔から、この施術を学び始めた」と語られたら、そこには別の意味が生まれます。
投資講座なら「勝率を上げる方法」だけでは、他の教材と比べられます。一方で、「自分自身が何度も無駄なエントリーで資金を減らし、ようやく待つことの大切さに気づいて作った手法です」と語られたら、読者の受け取り方は変わります。
商品は同じでも、文脈が変われば、価値の伝わり方は変わります。
価格の見え方が変わるという意味では、なぜ、人は高い宝石を見ると「良いものだ」と感じてしまうのか?の話にもつながります。人は、商品そのものだけでなく、価格、背景、希少性、物語などを合わせて価値を判断しているのです。
あなたのビジネスにどう応用するか?
150円の木のボトルが約18,000円で売れた理由は、ボトルの性能が上がったからではありません。ストーリーによって、そのボトルを見る意味が変わったからです。
ここから学べるのは、売れない原因は必ずしも商品の質が悪いからではない、ということです。価格が高いからでもありません。商品に込められた価値が、まだ伝わる形になっていないだけかもしれません。
まずは商品の背景を言葉にする
自分の商品を売る時は、まず背景を言葉にしてみることが大切です。作ったきっかけは何だったのか。どんな悩みから生まれたのか。過去にどんな失敗があったのか。お客さんは、これを手に入れることでどんな気持ちになれるのか。
ここが見えてくると、商品はただのモノではなくなります。
ストーリーを語るというのは、作り話で盛ることではありません。お客さんに関係のない感動話を無理やり入れることでもありません。商品の価値がちゃんと伝わるように、背景や意味を見える形にすることです。
ストーリーは「選ばれる理由」を作る
人は、商品だけを買っているようで、実は意味を買っています。
この商品を選ぶ理由は何か。この人から買う意味はどこにあるのか。今すぐ手に入れる必要があるのか。
その答えを作るのが、ストーリーです。
だからこそ、商品の運命は「どんなストーリーとともに届けるか」で大きく変わります。
150円の木のボトルが18,000円で売れたように、商品価値はスペックだけで決まるものではありません。そこにどんな意味を乗せるか。記憶や感情とどう結びつけるか。お客さんにどんな見方をしてもらうか。
ここまで設計できた時、商品はただのモノではなく、「選ばれる理由」を持った存在になるのです。


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