鼻セレブが売れた理由で面白いのは、商品の中身を大きく変えたことではありません。名前を変えたことです。今では「鼻セレブ」と聞けば、やわらかい高級ティッシュというイメージがすぐに浮かびます。花粉症の時期、風邪をひいた時、何度も鼻をかむ時に「普通のティッシュより鼻にやさしそう」と感じる人も多いはずです。
最初は「良い商品なのに売れない」状態だった
でも、鼻セレブは最初から売れていたわけではありません。もともとは1996年に「ネピア モイスチャーティシュ」という名前で発売された保湿ティッシュでした。商品としては、やわらかく、肌にやさしく、品質も悪くありません。むしろ、鼻をよくかむ人にとっては、普通のティッシュよりありがたい商品だったはずです。
ところが、売上は伸び悩みました。理由はシンプルです。「モイスチャーティシュ」という名前では、商品の良さが一瞬で伝わりにくかったからです。
保湿されていて、しっとりしている。なんとなく肌にやさしそうなことは分かります。でも、「欲しい」と思わせるには少し弱い。しかも当時は、今ほど保湿ティッシュが一般的ではありませんでした。「モイスチャー」と言われても、何がどう良いのか、誰のための商品なのか、すぐにイメージしにくかったのです。
その結果、良い商品なのに売り場で埋もれてしまう。一部の人には支持されていても、多くの人に「これ、自分に必要だ」と思ってもらえない。そんな状態だったわけです。
そこから2004年に名前を「鼻セレブ」へ変更。さらに、うさぎやアザラシなどの動物写真を使ったパッケージに変えました。
すると、流れが一気に変わります。
日本ネーミング大賞の紹介によると、「ネピア鼻セレブティシュ」発売翌年の2005年以降は取り扱い店舗数が急増し、売上は「ネピア モイスチャーティシュ」時代の10倍以上になったとされています。
つまり、売れなかった商品が、名前を変えたことで売れる商品に変わったのです。
「モイスチャーティッシュ」は悪い名前ではなかった
ここで大事なのは、「モイスチャーティッシュ」という名前が完全にダメだったわけではないことです。むしろ、機能は説明できています。
保湿されているティッシュ。しっとりしたティッシュ。普通のティッシュより肌にやさしそうな商品。意味はちゃんと伝わります。
でも、マーケティングでは「意味が分かる」と「欲しくなる」は別です。
「モイスチャーティッシュ」は説明としては正しい。でも、売り場で見た瞬間に心が動く名前ではありませんでした。
しかも、ティッシュ売り場には似たような言葉が並びます。やわらかい。しっとり。保湿。肌にやさしい。高品質。こうした言葉は、他の商品も言えます。だから差別化しにくい。
つまり「モイスチャーティッシュ」は、機能は伝えているけれど、記憶には残りにくい名前だったのです。
「鼻セレブ」は一瞬で価値が伝わる
一方で、「鼻セレブ」はかなり強い名前です。
まず短い。覚えやすい。そして、少し変です。
「鼻」と「セレブ」という、普通ならあまり並ばない言葉を組み合わせています。だから記憶に残ります。
しかも、この名前はただ目立つだけではありません。
「鼻に使う高級ティッシュ」という価値が、一瞬で伝わります。普通のティッシュではなく、ちょっと贅沢なティッシュ。このイメージが、説明しなくても伝わるのです。
ダイヤモンド・オンラインでも、「ネピア モイスチャーティシュ」から「鼻セレブ」へ改名し、ふわふわ系の動物パッケージに変更したことで、売上が10倍に伸びた事例として紹介されています。
ここがネーミングの力です。
機能を説明する名前から、価値を感じる名前に変わった。それだけで、商品の見え方が変わりました。
名前が変わると、買う理由も変わる
「モイスチャーティッシュ」だと、買う理由は機能です。
保湿されているから買う。やわらかそうだから買う。鼻にやさしそうだから買う。もちろん、それでも売れます。
でも、「鼻セレブ」になると、買う理由が少し変わります。
自分の鼻を大事にしたい。花粉症で何度も鼻をかむから、少しいいものを使いたい。家族にやさしいティッシュを置いておきたい。普通のティッシュではなく、ちょっといいものを選びたい。
こうした感情が生まれます。
つまり、鼻セレブは「保湿ティッシュ」ではなく、「鼻をいたわるちょっと贅沢なティッシュ」になったのです。
同じような商品でも、名前によって置かれる場所が変わります。
機能商品の棚から、ちょっとした贅沢品の棚へ。
ここが大きいです。
パッケージも名前の意味を強めた
鼻セレブが強かったのは、名前だけではありません。
動物の写真を使ったパッケージも印象的でした。うさぎ、アザラシ、ペンギンなど、やわらかくて癒される動物のイメージが、商品のやさしさとつながります。
「鼻セレブ」という名前だけでも覚えやすい。そこに、ふわふわした動物のビジュアルが加わる。すると、売り場で目立ちます。
しかも、ただ目立つだけではありません。「やさしそう」「高級そう」「肌に良さそう」という印象まで作れます。
日本ネーミング大賞の受賞コメントでも、鼻セレブは「かわいい」「癒される」「おしゃれ」「面白い」といった反応を得て、多くの人に知ってもらえたことが語られています。
名前で価値を伝え、パッケージで感情を補強する。この組み合わせが、鼻セレブを売れる商品に変えました。
この事例から分かること
鼻セレブの事例から分かるのは、商品名はただのラベルではないということです。
名前は、その商品の見え方を決めます。
「モイスチャーティッシュ」と言えば、保湿機能のあるティッシュに見える。「鼻セレブ」と言えば、鼻を大切にする高級ティッシュに見える。
中身が大きく変わらなくても、名前が変わるだけで、受け取られ方は変わります。
これは、ファッション業界で「ジーパン」を「デニム」と言い換えると印象が変わる話にも近いです。同じような商品でも、呼び方を変えるだけで、古く見えたり、今っぽく見えたり、高級に見えたりします。
また、ファブリーズが使うタイミングを変えただけで売れたように、商品は「何を売るか」だけでなく、「どう見せるか」で売れ方が変わります。
鼻セレブは、保湿ティッシュを売ったのではありません。鼻をいたわる、ちょっと贅沢な体験を売りました。
売れる商品には、必ず理由があります。
そしてその理由は、商品の中身だけではなく、「どんな名前で呼ばれているか」にも隠されています。
良い商品なのに売れない。そんな時、変えるべきなのは中身ではなく、名前かもしれません。


コメント