ゴディバの「義理チョコをやめよう」広告が面白いのは、チョコレート会社なのに「もっと買ってください」と言わなかったところです。むしろ、売上につながるはずの義理チョコ文化に対して、あえて「やめよう」と言った。普通なら矛盾しているように見えます。でも、この逆張りに見えるメッセージこそ、ゴディバのブランド価値を高めた理由でした。
この広告は、2018年2月1日付の日本経済新聞朝刊に掲載され、当時大きな話題になりました。東京コピーライターズクラブの記録にも、「日本は、義理チョコをやめよう。」というコピーが掲載されています。
なぜ、チョコレートブランドが「義理チョコをやめよう」と言ったのか。
答えは、商品を売る前に、お客さんの本音に寄り添ったからです。
ゴディバは「買ってください」と言わなかった
バレンタイン前の広告なら、普通はこう言いたくなります。
大切な人にチョコを贈りましょう。
職場の人にも感謝を伝えましょう。
今年のバレンタインはゴディバを選びましょう。
でも、ゴディバはそう言いませんでした。
むしろ、「義理チョコをやめよう」と言いました。
これはかなり勇気のあるメッセージです。なぜなら、義理チョコもチョコレート市場の一部だからです。義理チョコ文化が広がれば、チョコの購入数は増える。普通に売上だけを考えるなら、「義理チョコも大切です」と言ったほうが分かりやすい。
でも、ゴディバはそこに乗らなかった。
義理で配るチョコではなく、本当に気持ちを伝えたい人に贈るチョコへ。そういう方向へ、バレンタインの意味を戻そうとしたのです。
最初に女性の本音を代弁した
この広告が強かった理由は、いきなり主張しなかったことです。
最初に出てくるのは、売り手の都合ではありません。
義理チョコを誰にあげるか考えるのが大変。
準備するのがしんどい。
気を使う。
お金も使う。
でも、自分からはやめづらい。
こうした女性側の本音です。
広告本文でも、バレンタインデーが休日だと内心ホッとする女性がいることや、義理チョコの準備が大変であることが語られています。
これを読んだ人は、「たしかに」と感じやすい。
いきなり「義理チョコをやめよう」と言われると、少し強く聞こえます。でも、その前に「義理チョコって正直しんどいよね」という本音を言語化されると、受け取り方が変わります。
これは、売れる文章でもかなり大事な流れです。
いきなり提案するのではなく、まず相手の中にある本音を言葉にする。すると読者は、「この人は分かってくれている」と感じます。
その状態になってから提案されると、メッセージが入りやすくなるのです。
「うん、分かる」と思わせてから提案した
広告やセールスの文章で大事なのは、最初から説得しようとしないことです。
人は、いきなり説得されると身構えます。
でも、自分の気持ちを代弁されると、少し心を開きます。
「それ、分かる」
「たしかにそう」
「自分も思っていた」
この状態を作ってから提案する。
ゴディバの広告は、まさにこの流れです。
義理チョコをやめよう、という結論だけを見れば、かなり強い言葉です。でも、その前に「義理チョコの準備は大変」「本当はやめたい人もいる」という共感の土台を作っている。だから、ただの逆張り広告ではなく、多くの人の本音を代弁する広告になったのです。
これを専門的に言えば、相手が「うん」と頷きやすい流れを作ってから提案する方法です。
でも、難しく考える必要はありません。
要するに、売る前に共感を作るということです。
ゴディバは「義理」ではなく「本当に贈りたいチョコ」に戻した
この広告のすごいところは、「チョコを買うな」と言っているわけではないところです。
義理チョコをやめよう。
でも、バレンタインそのものを否定しているわけではありません。
むしろ、本来のバレンタインは「純粋に気持ちを伝える日」だと伝えています。広告本文でも、社内の人間関係を調整する日ではないという趣旨のメッセージが語られています。
つまりゴディバは、バレンタインの意味を整理し直したわけです。
義務で配るチョコではなく、本当に贈りたい人に贈るチョコ。
なんとなく配るチョコではなく、気持ちを込めて選ぶチョコ。
数を配るためのチョコではなく、価値を感じて贈るチョコ。
このポジションに立つことで、ゴディバというブランドの高級感や特別感ともつながります。
安く大量に配る義理チョコではなく、大切な人に選ぶチョコ。
この文脈のほうが、ゴディバには合っているのです。
売らないことで、ブランド価値が上がることがある
普通は、売るために広告を出します。
でも、売ろうとしすぎると、ブランド価値が下がることがあります。
特に高級ブランドの場合、「誰にでも、何でも、たくさん買ってください」と言いすぎると、特別感が薄れます。
ゴディバの広告は、そこがうまい。
義理チョコ需要を取りに行くのではなく、あえて距離を置いた。
その結果、ゴディバは「ただチョコを売りたい会社」ではなく、「バレンタインのあり方まで考えるブランド」に見えました。
これは、無印良品が派手に欲しがらせるのではなく、「これでいい」と思わせるブランド設計をしている話にも近いです。強く売り込まないことで、逆に信頼されることがあります。
また、リステリンが口臭という言いにくい問題を、ストーリーで自分事化させたように、ゴディバも義理チョコのしんどさをストレートに売り込まず、共感できる物語として見せました。
この事例から分かること
ゴディバの「義理チョコをやめよう」広告から分かるのは、売れる言葉は、必ずしも「買ってください」ではないということです。
むしろ、強い広告ほど、最初に売りません。
まず、お客さんの本音を言葉にする。
「たしかに」と頷いてもらう。
そのうえで、商品やブランドの立ち位置を示す。
この順番があるから、メッセージが届きます。
ゴディバは、義理チョコを売ろうとしませんでした。
その代わり、義理チョコに疲れていた人たちの本音を代弁しました。
そして、バレンタインを「義務で配る日」ではなく、「本当に気持ちを伝える日」として見せ直しました。
売れる商品には、必ず理由があります。
そしてその理由は、商品の中身だけでなく、「誰のどんな本音を代弁しているか」にも隠されています。
ゴディバは、チョコを売る前に、女性たちの本音を代弁したのです。


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