ファブリーズが売れた理由で面白いのは、商品の中身を大きく変えたことではありません。使うタイミングを変えたことです。
今でこそファブリーズは、消臭スプレーの代表的な商品として知られています。ソファ、カーテン、布団、服、部屋のニオイ対策。多くの人が「ニオイが気になる時に使うもの」として知っているはずです。
でも、ファブリーズは最初から大ヒットした商品ではありませんでした。
P&Gは当初、「イヤなニオイを消せる画期的な商品」としてファブリーズを売り出しました。ところが、広告を流しても売上は伸びず、むしろ低い水準のまま。Wiredに掲載されたCharles Duhiggの記事では、当時のファブリーズは失敗商品だったと紹介されています。
それが、売り方を変えたことで一気に変わります。
「ニオイが気になる時に使う商品」ではなく、「掃除の最後に使う商品」として見せたのです。
その結果、リニューアル後わずか2ヶ月で売上は2倍に。1年後には2億3000万ドル、ざっくり日本円で約360億円を売り上げる商品になり、その後は関連商品を含めて10億ドル、約1500億円規模のブランドへ成長したと紹介されています。
ファブリーズは「ニオイを消す商品」として売れなかった
普通に考えると、ファブリーズの売り方は分かりやすいです。
イヤなニオイがあります。
そのニオイを消せます。
だから使ってください。
とてもシンプルです。
でも、この売り方には大きな問題がありました。
それは、自分の家のニオイに本人が気づきにくいことです。
たとえば、ペットを飼っている家、タバコを吸う部屋、湿気のこもった部屋。外から来た人はニオイに気づいても、そこに住んでいる本人は慣れてしまって分からないことがあります。
つまり、「ニオイが気になる時に使ってください」と言っても、本人がそのニオイに気づいていなければ、使うきっかけが生まれません。
ここが、最初のファブリーズが売れなかった大きな理由です。
商品は優れていた。
でも、お客さんが使うタイミングを持っていなかったのです。
売れなかった原因は、商品ではなく使うタイミングだった
ファブリーズの失敗から分かるのは、商品が良くても売れないことがあるということです。
なぜなら、お客さんが「いつ使えばいいのか」をイメージできなければ、生活の中に入っていかないからです。
ファブリーズは、ニオイを消す機能を持っていました。
でも、「自分の家が臭い」と気づけない人にとっては、使う理由がありません。
そこでP&Gは、売り方を変えました。
ニオイがある時に使う商品ではなく、掃除の最後に使う商品へ。
部屋を片づけた後。
ベッドメイキングをした後。
掃除機をかけた後。
ソファやカーテンを整えた後。
最後にシュッとひと吹きすると、部屋が気持ちよく仕上がる。
このように、ファブリーズを「問題が起きた時の商品」ではなく、「掃除を終える時の商品」として見せたのです。
これで使うタイミングが一気に分かりやすくなりました。
「臭い部屋」ではなく「きれいな部屋」に売った
ここがファブリーズのマーケティングで一番面白いところです。
最初の売り方は、「臭い部屋に使う」でした。
でも、それでは売れませんでした。
なぜなら、自分の部屋が臭いと認めたくないし、そもそも気づいていない人も多かったからです。
そこで、売り方を変えました。
きれいに掃除した部屋に使う。
掃除の最後に使う。
気持ちよく仕上げるために使う。
この見せ方に変えたことで、ファブリーズはネガティブな商品ではなくなりました。
「あなたの部屋は臭いです」と言われる商品ではなく、「掃除を頑張った最後の仕上げ」として使える商品になったのです。
これは大きな違いです。
人は、責められると動きにくい。
でも、気持ちよく終われる行動なら取り入れやすい。
ファブリーズは、消臭という機能を持ちながらも、掃除の最後の気持ちよさを売ったのです。
使うタイミングが決まると、習慣になる
商品が売れるためには、「いつ使うか」がとても大事です。
朝起きたら歯を磨く。
食後にコーヒーを飲む。
お風呂上がりに化粧水をつける。
外出前に香水をつける。
こういう商品は、使うタイミングが生活の中に組み込まれています。
ファブリーズも同じです。
「ニオイが気になった時に使う」だと、使うタイミングが曖昧です。
でも、「掃除の最後に使う」なら分かりやすい。
掃除をする。
部屋がきれいになる。
最後にファブリーズをする。
いい香りがする。
気持ちよく終わる。
この流れができると、ファブリーズはただの消臭剤ではなく、掃除習慣の一部になります。
売れる商品は、生活のどこに入るかが決まっています。
ファブリーズは、そこを作り直したから売れたのです。
これは「買いたくなる導線」の作り方でもある
ファブリーズの事例は、スーパーやコンビニの導線ともよく似ています。
スーパーが牛乳を店の奥に置くのは、お客さんに店内を歩いてもらい、途中で他の商品と出会わせるためです。
コンビニが入口近くに雑誌を置いていたのは、雑誌を売るためだけではなく、店に人がいる空気を作るためでもありました。
ファブリーズも同じです。
商品をいきなり売るのではなく、使う流れを作った。
ニオイを消してください、ではなく、掃除の最後に使ってください。
このように、お客さんの生活の中に自然に入る導線を作ったわけです。
売れる導線とは、商品までの道順だけではありません。
お客さんが「それなら使う」と思えるタイミングを作ることでもあります。
この事例から分かること
ファブリーズが売れた理由から分かるのは、売れない原因は商品そのものにあるとは限らないということです。
商品が悪いのではなく、使うタイミングが伝わっていない。
機能が弱いのではなく、生活の中に入る場面がない。
お客さんが欲しくないのではなく、いつ使えばいいか分からない。
こういうことは、かなりあります。
ファブリーズは、ニオイを消す機能を持っていました。
でも、「臭い時に使う商品」としては売れなかった。
そこで、「掃除の最後に使う商品」に変えました。
すると、使うタイミングが明確になり、掃除の気持ちいい仕上げとして習慣に入っていった。
売れる商品には、必ず理由があります。
そしてその理由は、商品の中身だけでなく、「いつ使う商品として見せるか」にも隠されています。
ファブリーズは、使うタイミングを変えただけで、売れ方が変わったのです。


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