風邪をひいたとき、なぜかポカリスエットを飲みたくなる人は多いと思います。冷蔵庫にポカリが入っているだけで、少し安心する。熱があるとき、食欲がないとき、寝込んでいる家族に「ポカリ買ってこようか?」と言う。よく考えると、これはなかなかすごいことです。
ポカリスエットは薬ではありません。風邪を治す飲み物として売られているわけでもありません。それなのに、多くの人の頭の中では「風邪=ポカリ」「熱が出た=ポカリ」「しんどいとき=ポカリ」というつながりができています。
なぜ、ただの清涼飲料水ではなく、ポカリスエットは体調不良の場面で思い出されるブランドになったのか。ここに、マーケティングの大事なヒントがあります。
結論を急がずに言うなら、ポカリスエットが強かったのは「飲み物」ではなく「場面」を取ったことです。喉が渇いたときだけの商品ではない。汗をかいたとき、体が弱ったとき、水分を補給したいときに思い出される商品になりました。
ポカリスエットは、最初から日常の水分補給を狙っていた
ポカリスエットの誕生には、かなり象徴的な開発ストーリーがあります。大塚製薬の公式情報によると、研究員がメキシコ出張中に体調を崩したことがきっかけのひとつです。そのとき、「ゴクゴク飲みながら栄養も一緒に補給できる飲み物があればいい」と感じたそうです。
また、手術後の医師が水分補給のために点滴液を飲んでいたこともヒントになりました。そこから「飲む点滴液」というアイデアが生まれます。そして、発汗で失われる水分と電解質を補給する「汗の飲料」という発想につながりました。
ここで面白いのは、ポカリスエットが単なるスポーツ飲料としてだけ作られたわけではないことです。公式サイトでも、スポーツだけに限定せず、日常生活の中で飲む健康飲料として研究開発されたと説明されています。
つまり、最初から「運動する人だけの飲み物」ではありませんでした。「汗をかくすべての人の飲み物」として広げられる余地があったわけです。
スポーツ、仕事、お風呂上がり、寝起き、暑い日、そして体調を崩したとき。飲む理由がひとつではなく、生活のいろんな場面に入り込める設計でした。
これは、以前書いたキットカットの受験マーケティングにも近い話です。キットカットは、チョコレートそのものを売っただけではありません。「受験前に応援の気持ちを渡す」という場面を取りました。
ポカリスエットも同じです。飲料そのものではなく、「水分補給が必要な場面」を取った商品だと見ると、売れた理由がかなり見えやすくなります。
理由1「喉が渇いた」ではなく「体に必要」という意味を持たせた
普通の飲み物は、「おいしい」「甘い」「スッキリする」「安い」といった理由で選ばれます。でもポカリスエットは、そこに「体に必要そう」という意味を持たせました。
飲みたいではなく、必要だと思われた
ポカリスエット公式サイトでは、体液には水だけでなく、ナトリウムなどのイオンが含まれていると説明されています。汗をかくと、水分と一緒にナトリウムも失われます。ポカリスエットは、体液に近いイオンバランスの飲料として、水分や電解質を補給できると紹介されています。
ここが強いところです。
ただ「おいしいから飲んでください」ではありません。「汗をかいた体には、水だけではなくイオンも必要です」という理由があります。つまり、消費者の中に「飲むべき理由」が生まれるのです。
マーケティングで強い商品は、欲しい商品ではなく、必要だと思われる商品です。欲しいものは我慢されます。でも必要なものは買われます。
風邪のときに選ばれる理由
風邪のときにポカリスエットが選ばれるのも、この「必要そう」という印象が大きいはずです。熱が出る。汗をかく。食欲がない。水だけでは少し頼りない。そんなとき、ポカリスエットは「甘い飲み物」ではなく「体をうるおしてくれそうな飲み物」として選ばれます。
これはファブリーズのマーケティングにも通じます。ファブリーズも、最初は単なる消臭スプレーではありませんでした。「部屋や服に残るニオイをそのままにして大丈夫?」という必要性を作りました。
ポカリスエットも同じです。「水分補給は大事」という認識を生活の中に広げました。その結果、ただの飲料以上の意味を持つようになったのです。
理由2「風邪のとき」という強烈な使用シーンを取った
商品が売れるかどうかは、性能だけでは決まりません。大事なのは、「いつ使うものなのか」が一瞬で思い浮かぶことです。
商品は使う場面で覚えられる
ポカリスエットの場合、その代表的な場面のひとつが「風邪のとき」です。公式Q&Aでも、発熱時は皮膚から失われる水分量が増えるため、水分補給が大切だと説明されています。
この説明自体は、あくまで水分補給の話です。ポカリスエットが風邪を治すという話ではありません。でも、消費者の頭の中では「発熱」「汗」「水分補給」「ポカリ」がひとつの線でつながっていきます。
ここで重要なのは、ポカリスエットが「飲みたい気分」ではなく「飲むべきタイミング」と結びついたことです。
コーラは楽しいときに飲むイメージがあります。ビールは仕事終わりや乾杯のイメージがあります。レッドブルは「頑張る前」のイメージがあります。このように、強いブランドは必ず特定の場面を持っています。
レッドブルとの共通点
以前書いたレッドブルのマーケティングでも、レッドブルは単なる炭酸飲料ではなく、「もうひと踏ん張りしたいとき」の飲み物になったと解説しました。
ポカリスエットも同じです。「体がしんどいとき」「汗をかいたとき」「水分補給したいとき」という場面を取りました。だから、必要な瞬間に真っ先に思い出されるようになったのです。
これはコピーライティングでも大事です。商品説明で「高品質です」「こだわっています」と言うだけでは弱い。読者が「それ、どんなときに使うの?」とイメージできないからです。
逆に、「熱で食欲がないときに」「朝起きて喉がカラカラのときに」「お風呂上がりで汗をかいたときに」と場面を切り取る。すると、商品は一気に自分ごとになります。
理由3「家族が買ってくる飲み物」になった
ポカリスエットの強さは、自分で飲むだけではありません。誰かのために買う商品にもなっていることです。
誰かのために買われる商品は強い
風邪をひいた本人は、コンビニに行く元気がないこともあります。そのとき、家族や恋人や友人が「ポカリ買ってこようか?」と言う。この瞬間、ポカリスエットは単なる飲み物ではなく、ちょっとした看病のアイテムになります。
これはかなり強いポジションです。自分用だけの商品は、自分が欲しいときにしか買われません。でも、誰かのために買う商品になると、購買のきっかけが増えます。
しかも、風邪のときに買ってもらった記憶は残りやすい。子どものころ、熱を出したときに親がポカリを買ってきてくれた。大人になっても、体調を崩すとその記憶がよみがえる。こうして、商品は生活の記憶と結びついていきます。
記憶と結びつくブランド
この「記憶と結びつくブランド」は強いです。ストーリーで価値が上がった木のボトルの記事でも書きましたが、人は商品のスペックだけで価値を感じるわけではありません。
その商品にどんな場面があるのか。どんな感情が乗っているのか。そこによって、価値の感じ方は変わります。
ポカリスエットは、成分だけで選ばれているわけではありません。「しんどいときに助けてくれる感じ」「誰かが買ってきてくれる感じ」「家にあると安心する感じ」まで含めて、ブランドの記憶になっているのです。
売れた理由は「商品ジャンル」ではなく「生活シーン」を作ったこと
ポカリスエットのマーケティングから学べることは、商品はジャンルで売るより、場面で売ったほうが強いということです。
飲料として見れば、ポカリスエットは清涼飲料水のひとつです。でも「汗をかいたとき」「発熱したとき」「水分補給したいとき」「家族が体調を崩したとき」という場面で見ると、独自のポジションを持っています。
これが、売れる商品の作り方です。
たとえば、コピーライターが自分のサービスを売るときも、「文章を書きます」だけでは弱いです。それでは、他のライターとの違いが見えません。
でも、「説明会で高額商品を売りたいときの台本を作ります」と言えばどうでしょうか。「ステップメールで見込み客を教育したいときに導線を作ります」でもいいです。「LPの反応が悪いときに、売れる理由から作り直します」でも伝わります。
必要な場面が見えると、商品は選ばれやすくなります。
自分の商品に応用するなら
自分の商品を売るときは、「これは何の商品か?」だけで考えると弱くなります。大事なのは、「どんな場面で思い出される商品にするか?」です。
整体なら「肩こりを治します」だけではなく、「デスクワークで夕方になると首が重くなる人へ」と言えます。講座なら「文章を教えます」ではなく、「商品はあるのに売り方がわからない人へ」と言えます。コンサルなら「集客を教えます」ではなく、「SNS投稿をしても問い合わせが来ない人へ」と言えます。
このように、場面を切り取るだけで、商品は一気に具体的になります。
ポカリスエットは、喉が渇いた人だけを相手にしたのではありません。汗をかいた人、体調を崩した人、家族を心配する人に入り込みました。だから、ただの飲み物ではなく「風邪のときに思い出す飲み物」になったのです。
まとめ
ポカリスエットが「風邪のときに飲むもの」として定着した理由は、風邪を治す商品として売ったからではありません。水分補給という体に必要な意味を持たせたからです。そして、発熱や汗という生活シーンと結びつきました。さらに、家族が買ってくる看病の記憶にまで入り込みました。
売れる商品は、商品の説明だけで終わりません。お客さんの生活のどこに入り込むのか。どんな場面で思い出されるのか。誰が、誰のために買うのか。そこまで設計されている商品は強いです。
自分の商品やサービスを売るときも、「これは何の商品か?」だけで考えると、ありきたりになります。大事なのは、「お客さんはどんな瞬間にこれを必要とするのか?」と考えることです。
ポカリスエットは、飲み物を売ったのではありません。しんどいときの安心感を売った。ここに、長く選ばれ続けるブランドの強さがあります。


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