オールドスパイスのマーケティングで面白いのは、「古い男性向けブランド」という印象を、広告の見せ方で一気に変えたところです。
まず、オールドスパイスとは何か。
オールドスパイスは、アメリカで有名な男性向けグルーミングブランドです。ボディウォッシュ、デオドラント、香水などを展開しており、日本でいうと、男性向けの制汗剤やボディソープのブランドに近い存在です。
歴史は古く、長く愛されてきた定番ブランドでした。ただ、その一方で、若い世代からは「父親世代のもの」「おじさんっぽい匂い」という印象も持たれていました。SAGEのケーススタディでも、オールドスパイスは父親や祖父の匂いと結びつけられ、若い世代への魅力が弱まっていたと説明されています。
つまり、オールドスパイスが抱えていた問題は、知られていないことではありません。
知られているのに、若者から「自分向けではない」と思われていたことです。
オールドスパイスは若者にとって古いブランドだった
長く売れているブランドには強みがあります。
安心感がある。
知名度がある。
昔からのファンがいる。
でも、その強みは時に弱みにもなります。
長く続いているからこそ、「古い」と見られる。親世代が使っていたからこそ、「自分のブランドではない」と感じられる。
オールドスパイスも、まさにその状態でした。
ブランド名は知られている。
商品もある。
でも若者が「自分が使いたい」と思いにくい。
これはかなり難しい問題です。
知られていない商品なら、まず知ってもらえばいい。
でも、知られているのに古く見られている商品は、ただ宣伝を増やすだけでは変わりません。
見え方そのものを変える必要があります。
普通に若者向けにすると、逆にダサくなる
古いブランドが若者を狙う時、よくある失敗があります。
それは、無理に若者っぽくすることです。
流行りの言葉を使う。
派手な音楽を入れる。
若者風のタレントを出す。
急に「イケてる感」を出そうとする。
でも、これがうまくいかないことがあります。
なぜなら、若者は「若者に媚びている感じ」に敏感だからです。
古いブランドが急に若者ぶると、むしろ痛く見える。
では、オールドスパイスはどうしたのか。
古い印象を無理に隠すのではなく、バカバカしいほど大げさな広告で笑いに変えました。
「理想の男」をバカバカしいほど大げさに見せた
2010年、オールドスパイスは「The Man Your Man Could Smell Like」という広告キャンペーンを展開しました。広告会社はWieden+Kennedy。元NFL選手のアイザイア・ムスタファが登場し、タオル姿で女性に向けて語りかける、かなり独特な広告です。
この広告は、真面目に「男らしさ」を語ったわけではありません。
むしろ、男らしさを極端に誇張しました。
シャワーを浴びていたと思ったら、突然ボートに乗っている。
手元を見れば、チケットがダイヤに変わる。
ありえない展開なのに、本人はずっと真顔で語り続ける。
このバカバカしさが、逆に新しかったのです。
昔ながらの男性ブランドが、古い男らしさをそのまま押しつけるのではなく、笑えるキャラクターとして見せ直した。
だから、若い人にも「古いブランド」ではなく「ネタになるブランド」として受け取られました。
男性商品なのに、女性に話しかけた
この広告がさらに面白いのは、男性用商品の広告なのに、最初に女性へ話しかけたことです。
広告の冒頭は「Hello, ladies.」から始まります。
男性用ボディウォッシュなのに、女性に語りかける。
一見すると不思議です。
でも、ここに狙いがあります。
男性用商品でも、家庭で買うのは女性であることが多い。さらに、女性が面白がって話題にすれば、男性にも広がる。
つまり、オールドスパイスは「使う人」だけでなく、「買う人」「話題にする人」まで見ていたのです。
これはかなり重要です。
商品を使う人と、買う人は必ずしも同じではありません。
子ども向け商品を親が買う。
高齢者向け商品を家族が買う。
男性用商品を女性が買う。
ここを間違えると、メッセージがズレます。
オールドスパイスは、男性用商品でありながら、女性が見ても楽しめる広告にした。だから会話が広がりやすくなったのです。
広告を「見るもの」から「参加するもの」に変えた
オールドスパイスの強さは、テレビCMだけでは終わりませんでした。
キャンペーンでは、アイザイア・ムスタファがSNS上の質問に答える大量の動画レスポンスも作られました。D&ADのケーススタディでは、2010年2月にWieden+Kennedyが「Smell Like a Man, Man」キャンペーンを始めたことが紹介されています。
視聴者が反応する。
ブランドが返す。
その返答がまた話題になる。
さらに拡散される。
つまり、広告が「見るもの」から「参加するもの」になったのです。
この仕組みによって、オールドスパイスはただの古い男性ブランドではなく、SNSで話したくなるブランドになりました。
これは、リステリンが口臭という問題をストーリーで自分事化させた話にも通じます。人は自分に関係があると感じた時、広告をただの広告としてではなく、自分の話として受け取りやすくなります。
売上も実際に伸びた
このキャンペーンは、話題になっただけではありません。
売上にもつながりました。
Adweekなどで紹介された数字として、オールドスパイスのボディウォッシュ商品の売上は、キャンペーン後に大きく伸びたとされています。Kinesisは、Old Spice Guyキャンペーンによってボディウォッシュ売上が前年比107%増になったと紹介しています。
もちろん、売上増加は広告だけでなく、流通、販促、商品展開など複数の要素が重なった結果です。
それでも、この広告がブランドの印象を変え、若い層にも話題を広げたことは大きな転換点でした。
つまり、オールドスパイスはただバズっただけではありません。
古いブランドの見え方を変え、実際の購買にもつなげたのです。
古さを消さず、意味を変えた
オールドスパイスのすごさは、古いブランドであることを完全に消そうとしなかったところです。
古さを隠すのではなく、笑える強さに変えた。
男性向けの古いイメージを、真面目に押しつけるのではなく、極端に誇張してネタにした。
その結果、若者にとっても話したくなるブランドになりました。
これは、ドミノ・ピザが悪い口コミを隠さず、改善のストーリーに変えた事例にも近いです。弱点に見えるものも、見せ方を変えればブランドを立て直すきっかけになります。
また、ファッション業界で「ジーパン」を「デニム」と言い換えると印象が変わるように、言葉や見せ方を変えるだけで、古い印象が新しく見えることもあります。
この事例から分かること
オールドスパイスのマーケティングから分かるのは、古いブランドでも、見せ方を変えれば若返るということです。
大事なのは、無理に若者ぶることではありません。
若者に媚びることでもありません。
自分たちの弱点や古い印象を理解したうえで、それをどう面白く見せ直すか。
ここにヒントがあります。
オールドスパイスは、「おじさんの匂い」という印象をそのまま放置しませんでした。
でも、完全に別物になろうともしませんでした。
古い男らしさを、バカバカしいほど大げさに見せることで、笑えるブランドに変えたのです。
売れる商品には、必ず理由があります。
そしてその理由は、商品そのものを変えることではなく、「どう見えるか」を変えることに隠れていることもあります。
オールドスパイスは、古いブランドを若者向けに作り替えたのではありません。
古いブランドの見え方を、若者が話したくなるものに変えたのです。


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