ポテトスナックと聞けば、袋に入った商品を思い浮かべる人が多いでしょう。
袋は軽く、製造や輸送にも向いています。また、売り場へ並べやすいため、スナック菓子では定番の包装です。
ところが、じゃがりこはカップに入っています。
発売当時としては珍しい選択でした。しかも、形も薄いチップスではなく、細長くて硬いスティックです。
なぜ、カルビーはスナック菓子の一般的な形から外れたのでしょうか。
理由は、開発の出発点にあります。
じゃがりこは「どんなポテトスナックを作るか」より先に、誰が、どこで食べる商品にするかを決めていました。
じゃがりこの開発は1991年に始まった
じゃがりこの開発が始まったのは1991年です。
当時のカルビーは、企業側の技術や発想を起点にする商品開発から、生活者が求める商品を作る方向へ移ろうとしていました。そこで、5人のプロジェクトチームが新しいスナック菓子の開発に取り組みます。
チームが注目したのは、屋外で食べる場面でした。
当時の主流だった袋入りスナックは、家族や友人と分けやすい一方、外出先では扱いにくい面があります。袋を大きく開けば中身がこぼれやすく、食べる時には手も汚れます。
そこでカルビーは、持ち運びやすく、手を汚さずに食べられる商品を目指しました。
ターゲットとして設定されたのが、女子高校生です。
なぜ女子高校生を狙ったのか?
公式資料では、じゃがりこについて「女子高校生がカバンに入れて持ち歩けるお菓子」というコンセプトが繰り返し紹介されています。
女子高校生は、学校、通学、放課後など、家の外で過ごす時間が長い層です。また、友人同士で新しい商品や話題を共有する場面も多くなります。
マーケティングの視点では、ここが重要です。
「幅広い人に好まれる商品」を最初から目指すと、利用場面がぼやけます。一方、具体的な人物を決めれば、商品に必要な条件が見えてきます。
カバンに入る大きさが必要です。さらに、制服や教科書を汚しにくく、休み時間にも食べやすい形が求められます。
つまり、女子高校生という設定は、広告上のターゲットにとどまりません。容器や中身を決める設計条件として働きました。
なぜ袋ではなくカップだったのか?
カルビーの公式FAQによると、じゃがりこは「持ち歩けるスナック」という発想から開発されました。そのため、袋菓子ではなく、箱やカップに入った商品が検討されています。
カップには、袋とは異なる利点があります。
カバンの中で潰れにくい
ポテトチップスのように薄い商品は、カバンの中で押されると割れやすくなります。
一方、硬い容器なら、中身を衝撃から守れます。教科書や財布と一緒に入れても、形が崩れにくくなるでしょう。
ただし、保護性能だけでカップを選んだとは限りません。公式情報から確認できる中心的な理由は、持ち歩きやすい商品を作ることでした。
机やベンチへ置きやすい
カップには底があります。そのため、学校の机や公園のベンチへ置いても倒れにくくなります。
袋菓子のように、中身を広げる場所も必要ありません。フタを開ければ、そのまま食べ始められます。
外出先での食べやすさを考えると、カップ自体が小さな器として働いています。
片手でも食べやすい
カップを片手で持ち、もう一方の手でスティックを取れます。
袋の底へ手を入れる必要がないため、指へ粉や油が付きにくくなります。開発者も「持ち運びに便利で手が汚れず、食べやすいカップ」を目標にしていたと説明しています。
つまり、カップは中身を包むだけの包装ではありません。
じゃがりこの食べ方を作る道具でもあったのです。
最初から現在の形だったわけではない
じゃがりこの開発では、複数の形と容器が試されています。
初期には「じゃがスティック」という名前が検討され、商品は四角柱でした。さらに、パッケージにも箱型が使われています。
その後、テスト販売を重ねながら改良が進みました。
最終的に、中身は食べやすい円柱へ変わります。容器にはカップ型が採用され、商品名も「じゃがりこ」に決まりました。こうして1995年に本格発売へ進みます。
四角柱から円柱へ変えた理由
カルビーは、最終的に「食べやすいように円柱へ変えた」と説明しています。
四角い棒には角があります。そのため、口へ入れた時の感触が強くなりやすいでしょう。
円柱なら角がなく、どの向きでも同じように持てます。また、細長い形を保ちながら、口へ運びやすくなります。
ここから考えられるのは、独自性だけを優先しなかったことです。
四角い形は目立ちます。しかし、繰り返し食べにくければ、商品として定着しません。テスト販売を通じて、珍しさと使いやすさのバランスを整えました。
硬い食感にも利用場面が表れている
じゃがりこは「はじめカリッとあとからサクサク」という独自の食感を特徴としています。1995年の発売から30周年を迎えた現在も、スティック形状や心地よい硬さはブランドの中心です。
薄いポテトチップスとは、食べる音も速度も違います。
じゃがりこは一本ずつ取り出し、噛んで食べます。そのため、一気に口へ入れるより、少しずつ楽しみやすくなります。
また、細長いスティックなので、友人へ一本だけ渡すことも簡単です。
味だけを見ると、じゃがいもを使ったスナックです。しかし、形と食感によって、食べる時間や人との関わり方まで変わりました。
じゃがりこは「屋外消費型」の商品だった
開発チームが掲げたのは、屋外消費型のスナック菓子でした。
この言葉が示す通り、じゃがりこは家で食べる袋菓子の代用品だけを狙った商品ではありません。
学校の休み時間、通学途中、放課後の公園などへ、スナック菓子を持ち出す場面を作りました。
商品を使える場所が増えた
袋入りスナックにも、小袋や持ち運べる商品はあります。
ただし、じゃがりこは容器、形、硬さをまとめて屋外向けに整えました。
そのため、カバンへ入れやすく、机でも食べられます。また、一本ずつ取れるため、食べる量も調整しやすくなります。
新しい市場は、まったく新しい顧客から生まれるとは限りません。
既存の商品を使える場所や時間を増やすことで、購入機会を広げる方法もあります。
ポテトチップスと同じ土俵で戦わなかった
カルビーには、すでにポテトチップスという強い商品がありました。
もし、じゃがりこを別の味のポテトチップスとして開発すれば、同じ評価基準で比較されます。味、価格、容量といった項目です。
しかし、じゃがりこは見た目も食感も容器も違います。
ポテトチップスは薄く、袋から取って食べます。一方、じゃがりこは硬いスティックで、カップから一本ずつ取り出します。
そのため、「どちらが優れたポテト菓子か」という比較から離れやすくなりました。
商品名にも「ポテトチップス」というカテゴリー名を使っていません。
独立した名前と食べ方を作ることで、既存商品と共存できる市場を開いたのです。
「じゃがりこ」という名前はどう生まれたのか?
公式FAQによると、商品名は「じゃがいも」と「りかこ」を組み合わせて生まれました。
開発担当者の友人であるりかこさんが、試作品をおいしそうに食べている姿を見たことがきっかけです。「じゃがいも+りかこ」から「じゃがりかこ」を経て、「じゃがりこ」になりました。
商品名として見ると、いくつかの特徴があります。
「じゃが」によって原料のじゃがいもを連想できます。一方、「りこ」という語尾には軽さがあり、人物名のような親しみも感じられます。
また、既存の商品カテゴリーを説明する名前ではありません。
だからこそ、独自のスティック菓子とカップをまとめて、一つの新しいブランドとして覚えてもらえます。
キリンとダジャレが商品を会話に変えた
じゃがりこのパッケージには、キリンのキャラクターが使われています。
カルビーは、「食べだしたらきりがない」とキリンを掛け合わせたことが、採用理由だと説明しています。さらに、長く愛されてきた「かっぱえびせん」にあやかりたいという願いも込められました。
これは、単なる飾りではありません。
カップやフタには、ダジャレやキャラクターを使った表現が数多く入れられています。近年もロゴを変えた企画や、推し活に使えるフタなど、パッケージをコミュニケーションの場として活用しています。
容器を広告媒体として使った
袋菓子にも印刷面はあります。
ただし、カップには正面、側面、フタがあります。そのため、商品名や味だけでなく、遊びを加えられる面が多くなります。
食べている間も、容器は机や手元に残ります。
つまり、購入前の売り場だけでなく、食べている時間にもブランドとの接点が続きます。
じゃがりこは、カップを保存容器としてだけでなく、話題を作るメディアとして育てました。
友人へ渡す「あげりこ」が生まれた
じゃがりこは一本ずつ取り出せるため、友人へ少量を渡しやすい商品です。
カルビーは、じゃがりこを渡して気持ちを伝える行動を「あげりこ」と呼び、パッケージ企画へ発展させています。
2022年の公式調査では、回答した女子高校生の44.1%が、過去にじゃがりこを誰かへあげた経験があると答えました。また、女子高校生が直近1年で渡したお菓子の中では、じゃがりこが最多だったと紹介されています。
ここには、発売時の設計が生きています。
女子高校生が持ち歩き、友人と食べる商品として作られたため、分ける行動が自然に起きました。
カルビーが後から無理に習慣を作ったというより、顧客の行動へ名前を付け、公式の企画として広げた形です。
顧客の行動を商品企画へ戻している
じゃがりこでは、顧客参加型の商品開発も行われています。
期間限定商品の企画では、味、パッケージ、バーコード、ダジャレについて、SNSでアイデアを募りました。公式記事によると、計1万2883件の案が集まり、5万1963件の投票を経て商品化されています。
また、現役女子高校生と共同開発した商品も発売されました。発売当初に設定したターゲットとの関係を、長く保っていることが分かります。
ただし、顧客の声をそのまま商品にすれば成功するとは限りません。
企業側には、味の実現性、原価、製造、品質を整える役割があります。じゃがりこでも、独自製法と商品設計を土台にしながら、顧客のアイデアを取り入れています。
じゃがりこが30年続いた理由
じゃがりこは1995年に誕生し、2025年10月に発売30周年を迎えました。
長く売れた理由を一つに絞ることはできません。
持ち運びやすいカップがあり、一本ずつ食べられる形があります。さらに、独自の食感、覚えやすい名前、遊びのあるパッケージも組み合わさっています。
重要なのは、それぞれが別々に考えられていない点です。
女子高校生がカバンへ入れて持ち歩くという場面から考えると、カップも形も食感も自然につながります。
一つの利用場面を中心に、商品全体が統一されているのです。
カップ入りにも弱点はある
カップは便利ですが、袋よりも容器の体積が大きくなりやすいでしょう。
そのため、輸送や売り場の効率、包装資材の量では不利になる可能性があります。また、カバンへ入るとはいえ、柔らかい袋ほど形を変えられません。
さらに、カップへ入れるだけで商品価値が生まれるわけでもありません。
中身が持ち歩きに向かなければ、容器との一体感が失われます。
じゃがりこでは、硬くて崩れにくいスティックと、手を汚しにくい食べ方がカップに合っています。
表面的に包装だけをまねるのではなく、利用場面から中身と容器を整える必要があります。
コピーライティングの視点で見るじゃがりこ
じゃがりこから学べるのは、商品説明より先に使用場面を明確にする考え方です。
「じゃがいもを使った硬いスナックです」と説明しても、他の商品との違いは十分に伝わりません。
一方、「女子高校生がカバンへ入れて、外で食べられるスナック」と示すと、形や容器の理由が見えてきます。
コピーを書く際も、機能だけを並べるより、いつ使うのかを示した方が理解されやすくなります。
「動画講座です」だけでは、必要性が見えません。
そこで、「移動中の10分で一項目ずつ学べる講座」と伝えれば、利用場面が浮かびます。
UCC缶コーヒーとの共通点
UCCの缶コーヒーは、瓶入りコーヒーの不便を解消し、移動中にも飲める商品を作りました。
じゃがりこも、家の中で広げて食べる袋菓子から、外へ持ち出せるスナックへ場面を広げています。
両者に共通するのは、容器を単なる包装として扱っていないことです。
缶はコーヒーを持ち運べるようにし、カップはスナックを外出先で食べやすくしました。
中身を改善するだけでなく、使える時間や場所を増やすことで市場を広げています。
クイックルワイパーとの共通点
クイックルワイパーは、掃除機を出すほどでもない場面に、新しい床掃除を提案しました。
じゃがりこも、家で袋菓子を食べる場面とは別に、学校や外出先で少しずつ食べる選択肢を作っています。
どちらも既存商品を完全に置き換えていません。
袋菓子には、家族で分けやすい良さがあります。掃除機にも、大きなゴミを吸える強みがあります。
新商品が成功するために、競合のすべてへ勝つ必要はありません。
競合が使いにくい場面を見つけ、そこで明確な価値を提供する方法があります。
あなたのビジネスにどう応用するか?
じゃがりこの事例を応用する際は、カップ型の商品を作ることが目的ではありません。
見るべきなのは、利用者、使用場面、商品設計を一つにつなげる方法です。
ターゲットを生活場面まで具体化する
「女性向け」「若者向け」だけでは、商品設計に必要な情報が足りません。
どこで過ごしているのか。何を持ち歩いているのか。誰と一緒に使うのか。
さらに、使用できる時間や、避けたい負担も確認します。
じゃがりこは女子高校生だけでなく、「カバンへ入れて外で食べる」まで具体化しました。
中身より先に、使う場面を決める
新商品を考える時は、機能から始める場合が多いでしょう。
しかし、使用場面から考える方法もあります。
通勤中に使うなら、片手で操作できる必要があります。寝る前に使うなら、音や明るさを抑えなければなりません。
場面が決まれば、必要な形や提供方法も見えてきます。
容器や納品方法も商品として考える
物理的な商品では、包装が使いやすさを左右します。
サービスでも、届け方によって価値が変わります。
長いPDFだけで納品するのか、チェックリストも付けるのか。対面だけで説明するのか、後から見られる動画を残すのか。
内容が同じでも、受け取り方を変えれば利用できる場面が増えます。
顧客が共有しやすい単位を作る
じゃがりこは一本ずつ渡せるため、友人同士で分けやすい商品です。
サービスでも、小さく共有できる要素を考えられます。
診断結果を一枚の画像にする。学んだ内容をSNSへ投稿できるテンプレートにする。紹介しやすい体験版を用意する。
顧客が人へ伝えやすい単位を作ると、口コミのきっかけが増えます。
顧客の行動へ名前を付ける
企業が想定していない使い方や習慣が生まれる場合があります。
その行動に価値があるなら、覚えやすい名前を付ける方法があります。
じゃがりこを人へ渡す行動は「あげりこ」と呼ばれ、公式企画へ発展しました。
名前が付くと、行動を話しやすくなります。ただし、企業側が無理に流行語を作るだけでは広がりません。すでに顧客の間で起きている行動を見つけることが先です。
じゃがりこに学ぶべき本当のこと
じゃがりこは、袋をカップへ変えただけで成功した商品ではありません。
女子高校生がカバンに入れて持ち歩く場面を先に決めました。そのため、手を汚しにくいスティック、食べやすい円柱、持ち運びやすいカップが選ばれています。
さらに、商品名、キリンのキャラクター、ダジャレ、フタの企画によって、カップを会話の道具へ育てました。
友人へ渡す行動も生まれ、後に「あげりこ」として公式の企画へつながっています。
つまり、成功を支えたのは味だけではありません。
誰が、どこで、どのように食べるのかを明確にし、その場面に必要な要素を商品全体へ反映しました。
新商品を作る時は、何を入れるかだけに注目しがちです。
しかし、使う人の生活から逆算すれば、形、容器、名前、売り方まで変わります。
じゃがりこは、スナック菓子の中身より先に、食べる場面を設計した商品なのです。


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