なぜ、シャウエッセンは“禁じ手”だった焼き調理を解禁したのか?

シャウエッセンが禁じ手だった焼き調理を夜味で解禁し夕食市場を開拓したマーケティング戦略 マーケティング事例
シャウエッセンはボイルの価値を残しながら、夜味で焼きという新しい正解を加えました。

シャウエッセンをフライパンで焼いて食べた経験はあるでしょうか。

表面には香ばしい焼き色がつきます。脂がジュワッと広がり、食欲をそそる香りも立ちます。

家庭では、ごく普通の食べ方に見えます。

ところが、日本ハムの社内では長年、シャウエッセンの焼き調理が“禁じ手”とされていました。

公式に勧めてきたのは、ボイル調理です。

天然羊腸を張りつめさせ、噛んだ瞬間の「パリッ!!」を引き出すには、焼くよりもゆでる方が適している。この考え方が、ブランドの中心にありました。

しかし、2024年10月に発売した「シャウエッセン 夜味」では、方針を変えます。

日本ハムは、新商品のおすすめ調理法として、長らく推奨してこなかった「焼き調理」を初めて打ち出しました。しかも、公式リリースの見出しにまで“禁じ手”という表現を使っています。

なぜ、約40年にわたって守ってきた正解を変えたのでしょうか。

そこには、顧客の食べ方を認めただけでは終わらない、使用場面を広げる戦略がありました。

シャウエッセンは、どんな商品として生まれたのか?

シャウエッセンが発売されたのは、1985年です。

当時の日本では、赤いウインナーが広く親しまれていました。そこで日本ハムは、本場ドイツの味を目指し、あらびきの豚肉を天然羊腸へ詰めた本格的なウインナーを開発します。

商品名の「シャウエッセン」は、ドイツ語の要素を組み合わせた名前です。

「Schau」は見ること、「Essen」は食べることを意味します。食卓を囲む楽しい場面をイメージしたブランド名として作られました。

商品の大きな特徴は、噛んだ時の食感です。

天然羊腸が張りつめ、歯を入れた瞬間に「パリッ!!」という高い音が生まれます。この音を伝えるため、発売当時のテレビCMでは「美味なる物には音がある!」というコピーが使われました。

テレビCMは大きな反響を呼びます。

公式ヒストリーによると、発売初年度の売上は100億円に達しました。翌年には260億円を記録し、大ヒット商品へ成長しています。

つまり、ボイル調理は単なるレシピではありませんでした。

シャウエッセンをほかのウインナーと分ける、ブランドの重要な約束だったのです。

なぜ、シャウエッセンはボイルを勧めてきたのか?

シャウエッセンの公式サイトでは、現在も「黄金の3分間ボイル」が紹介されています。

沸騰したお湯を弱火にし、シャウエッセンを3分間ゆでる方法です。加熱によってうま味や脂肪分が溶け合い、羊腸が張ることで、特徴的な食感を楽しめます。

焼き調理では、表面へ強い熱が当たります。

焼きすぎれば、羊腸が破れるかもしれません。肉汁が流れ出し、シャウエッセンらしい食感を損なう可能性もあります。

一方、ボイルなら全体を均等に温めやすくなります。

誰が調理しても失敗しにくいため、ブランドが約束するおいしさを再現しやすい方法です。

ここに、企業が推奨方法を簡単に変えられない理由があります。

公式の食べ方は、お客様への品質保証でもあるからです。

もし、自由な調理法を何でも認めれば、失敗した食体験までブランドの評価になります。

そのため、日本ハムがボイルを守り続けた判断には、十分な理由がありました。

それでも、顧客はすでに焼いていた

企業がボイルを推奨する一方で、家庭では別の食べ方が広がっていました。

フライパンで焼けば、香ばしさが加わります。朝食の目玉焼きや野菜と一緒に調理しやすく、洗い物も減らせます。

日本ハムも、以前から多くの顧客が焼き調理をしていると把握していました。

さらに、「夜味」の発売前に、従業員へ調理方法のアンケートを実施します。その結果、焼き調理を“禁じ手”と認識しながらも、88%が自宅で焼いた経験を持っていました。主な理由は、焼いた時の香りや食欲をそそる見た目でした。

ここが面白いところです。

ブランドを作る側でさえ、公式の推奨とは違う方法で食べていました。

公式の正解と、生活の中の正解がズレていたのです。

ただし、この事実だけを理由に、通常商品の推奨方法を全面的に変えたわけではありません。

日本ハムは、従来のシャウエッセンには引き続きボイルを勧めました。そのうえで、焼くとおいしさが引き立つ新商品を作ったのです。

問題は「焼くか、ゆでるか」ではなかった

シャウエッセンが抱えていた課題は、調理方法だけではありません。

日本ハムの調査によると、シャウエッセンが食べられる場面の約80%を、朝食と昼食が占めていました。

人気商品ではあるものの、夕食での存在感が弱かったのです。

朝食なら、パン、目玉焼き、サラダと合わせやすいでしょう。弁当にも入れやすく、短時間で準備できます。

しかし、夕食の主菜として考えると、少し軽く見える場合があります。

そこで日本ハムは、「どうすれば夜にも食べてもらえるか」と考えました。

答えとして開発されたのが、初の夕食向け商品「シャウエッセン 夜味」です。

従来品よりスパイス感を高め、ご飯やおつまみに合う濃厚な味へ仕上げました。さらに、スパイスの香りを引き立てるため、焼き調理をおすすめします。

したがって、焼き調理の解禁は、顧客へ迎合しただけの変更ではありません。

夕食という新しい使用場面を作るために、味と調理法をセットで再設計した戦略でした。

「夜味」は通常商品を否定しなかった

長年のブランド方針を変える時、既存客への伝え方が難しくなります。

「今までの食べ方は間違っていました」と言えば、企業への信頼を損ないます。

反対に、過去の正解へ固執すれば、新しい需要を取り込めません。

シャウエッセンは、この問題を商品で解決しました。

通常のシャウエッセンでは、黄金の3分間ボイルを引き続き推奨します。一方、「夜味」は焼くことで濃厚なスパイスが引き立つため、焼き調理がおすすめです。

つまり、どちらか一方を間違いにしませんでした。

通常品にはボイルという正解があり、夜味には焼きという別の正解があります。

この分け方によって、ブランドのこだわりを守りながら、用途を広げられました。

マーケティングでは、新しい提案をするために、古い提案を否定してしまうことがあります。

しかし、顧客の中には、以前の使い方を気に入っている人もいます。

シャウエッセンは、「正解を入れ替える」のではなく、「正解を追加する」方法を選んだのです。

“禁じ手を解禁”という言葉が話題を作った

焼き調理そのものは、多くの家庭ですでに行われていました。

そのため、「フライパンで焼けます」と伝えるだけでは、大きなニュースになりません。

日本ハムは、長年推奨してこなかった背景を利用しました。

公式リリースでは、“禁じ手”の「焼き調理」を推奨した商品として発表します。これにより、単なる新味の発売が、ブランドの常識を変える出来事になりました。

「焼いてもいい」よりも、「禁じ手を解禁」の方が気になります。

なぜ禁止していたのか。何が変わったのか。本当に焼いた方がおいしいのか。

読者の中に疑問が生まれるため、商品説明の続きを読みたくなります。

さらに、「夜味」という名前も説明を求めます。

具体的な味を伝える名前ではないため、「夜味って何?」という問いが自然に生まれます。発売時のCMでも、この疑問をそのまま企画へ利用しました。

コピーライティングの観点では、商品名とニュースの切り口が連動しています。

「夜に食べたいやつ。」というコピーまで含め、何味かを細かく説明する前に、使用場面を伝えているのです。

朝食商品を夕食へ移すには、味だけでは足りない

既存商品を別の時間帯へ広げる場合、パッケージに「夕食にも」と書くだけでは弱いでしょう。

消費者の頭には、すでに商品の定位置があります。

シリアルは朝食、カップ麺は昼食や夜食、ビールは夕食後。このように、商品と時間帯が結びついています。

シャウエッセンにも、朝食や弁当のおかずという強いイメージがありました。

そこで夜味は、夕食に合う理由を複数作ります。

濃いスパイスは、ご飯やお酒に合わせやすくなります。焼き調理なら香ばしさが加わり、フライパン料理の主役としても見せやすくなります。

商品名には「夜」が入っています。

CMでも朝食偏重のデータを示し、夜に食べてほしい意図を正面から伝えました。

つまり、味、調理法、商品名、広告が、すべて同じ使用場面を指しています。

商品だけを変えたのではありません。

消費者が夕食で選ぶための理由を、一貫して作ったのです。

初月で社内予想の3倍売れた

「夜味」は2024年10月、期間限定商品として発売されました。

公式ヒストリーによると、初月の販売は社員の想像の3倍に達するほど、大きな反響を呼びます。

この数字は、夕食向けの需要が存在したことを示します。

シャウエッセンを朝や昼に食べていた人だけでなく、夜に食べる理由を探していた人もいたのでしょう。

さらに、公式Xで新味を予告した投稿は、900万を超えるインプレッションを記録したと、日本ハムの社内広報誌で紹介されています。

ただし、夜味は当初から期間限定商品でした。

発売から約4カ月で終売となったため、好評でも買えなくなります。公式ヒストリーでも、この経緯が紹介されています。

その後、日本ハムは2025年10月に「夜味」を再発売しました。

再発売では、焼き調理の魅力をさらに伝えるため、「『ジュッ‼』から1分 黄金の肉汁コーティング焼き」という新しい調理方法も提案しています。

一度の話題で終わらず、使用場面を育てる展開へ進んだのです。

焼き調理は、ほかの商品にも広がった

「焼き」という提案は、夜味だけで終わりませんでした。

2025年には、辛さと旨味を強めた「シャウエッセン パワ辛」が登場します。この商品も、焼くことで辛味と旨味を感じやすくなるため、焼き調理を推奨しました。

同年7月には、夜味シリーズから「シャウエッセン 花火」が期間限定で発売されます。黒コショウと香辛料を使い、焼くことで刺激的な辛さが引き立つ設計でした。

ここから分かるのは、「焼き解禁」が一時的な広告表現ではなかったことです。

新しい味、新しい時間帯、新しい食べ方をつなぐ、ブランド拡張の軸になりました。

通常のシャウエッセンが守る「ボイルでパリッ!!」は残っています。

その周りに、焼くことで魅力が増す商品群を作りました。

ブランドの中心を壊さず、外側へ市場を広げる方法です。

顧客の自己流は、商品開発のヒントになる

企業が想定した使い方と、顧客の実際の使い方が一致するとは限りません。

ソフトウェアなら、開発者が想定していない機能が好まれる場合があります。飲食店でも、常連客が独自の組み合わせで注文するケースがあります。

シャウエッセンでは、顧客がすでに焼き調理をしていました。

企業側も、その事実を把握しています。

そこで「正しくはボイルです」と否定するのではなく、焼く人が感じていた香りや食欲をそそる魅力を、新商品の価値へ変換しました。

ここが重要です。

顧客の使い方をそのまま公式化しただけではありません。

なぜ、その方法を選ぶのかを調べました。そのうえで、焼き調理に合う味を開発し、夕食向けの商品として整えています。

顧客行動を観察し、商品として再編集したのです。

ブランドのこだわりは、守る部分を決めるためにある

長く続くブランドほど、変化に慎重になります。

過去の成功には、明確な理由があるからです。

シャウエッセンの場合、天然羊腸のパリッとした食感、あらびき肉、スモークの香りがブランドの核です。

ボイル調理も、その魅力を引き出す重要な方法でした。

ただし、ボイルという手段そのものが、最終目的ではありません。

目的は、シャウエッセンらしいおいしさを届けることです。

夜味では、スパイスを強め、焼いた時の香ばしさまで含めて、新しいおいしさを作りました。それでも、パリッとした食感や肉の旨味は残しています。

変えたのは、ブランドの核ではなく、核を届ける方法です。

この区別ができれば、長年のこだわりは成長の妨げになりません。

むしろ、「何を変えてよく、何を残すべきか」を判断する基準になります。

商品を変えず、提案だけ変えたわけではない

シャウエッセンの事例を、「同じ商品でも食べ方を変えれば売れる」と単純化すると、本質を外します。

夜味は、通常品へ焼き方の説明を付けただけの商品ではありません。

夕食で食べてもらうため、スパイスの比率を見直しています。ご飯やお酒に合う味へ調整し、焼くことで香りが引き立つ設計にしました。

つまり、商品と提案を同時に変えています。

使用場面だけを変えても、その場面で価値を発揮できなければ、継続購入にはつながりません。

「夜に食べてください」と言うなら、夜に選ばれる味が必要です。

マーケティングは、言葉だけで認識を変える仕事ではありません。

約束した体験を、商品側でも実現する必要があります。

あなたのビジネスにどう応用するか?

シャウエッセンと同じ規模の商品開発は必要ありません。

応用すべきなのは、顧客の実際の行動を観察し、新しい用途へ育てる考え方です。

顧客が自己流で使っていないか確認する

最初に、説明書どおりの使い方だけを見ないようにします。

どの機能を一番よく使っているのか。どんな場面で購入しているのか。企業が想定していない組み合わせはないか。

営業担当者やサポート担当者には、こうした情報が集まります。

購入後アンケートで、「どんな時に使っていますか」と尋ねてもよいでしょう。

想定外の使い方が繰り返されているなら、新しい需要の兆候かもしれません。

顧客の使い方を、すぐ否定しない

企業には、品質を守るための推奨方法があります。

そのため、自己流の使用を何でも認めることはできません。安全性や品質を損なう場合は、明確に止める必要があります。

一方、安全上の問題がなく、顧客が価値を感じているなら、理由を調べる余地があります。

なぜ、その使い方を選ぶのか。

手間が減るからか。見た目が良くなるからか。別の場面に合うからか。

理由が分かれば、新商品や新サービスのヒントになります。

古い正解を否定せず、新しい正解を加える

既存客が気に入っている方法を否定すると、反発を招きます。

たとえば、長く対面型の講座を提供してきた会社がオンライン講座を始める場合、「対面は時代遅れ」と言う必要はありません。

対面には、直接質問できる良さがあります。

オンラインには、好きな時間に学べる良さがあります。

用途ごとに正解を分ければ、既存客を守りながら新しい顧客も取り込めます。

新しい使用場面に合わせて商品も調整する

昼向けの商品を夜へ移すなら、名前だけを変えても不十分です。

夜に使う人が求める味、容量、機能、サポートを確認します。

コンサルティングなら、経営者向けだった内容を社員向けに売る際、説明やワークの難易度を変える必要があるでしょう。

商品を置く場面が変われば、求められる体験も変わります。

新しい用途に合わせ、商品側も小さく調整します。

新商品で小さく試す

ブランド全体の方針を一度に変更すると、既存客への影響が大きくなります。

シャウエッセンは、通常品の推奨を変えず、期間限定の新商品で焼き調理を試しました。

中小企業でも、限定プランや試験サービスを使えます。

少人数だけで提供し、反応を見る。期間を区切って新しい用途を提案する。既存商品の派生版として試す。

小さく始めれば、失敗した時の影響を抑えられます。

「変えたこと」自体をニュースにする

長年続けてきた方針を変えるなら、その背景にはニュース性があります。

ただ「新商品を発売します」と伝えるより、何を変えたのかを見せた方が注目されます。

「20年間、対面だけだった講座を初めてオンライン化」

「職人が禁止していた方法を、家庭向け商品で初解禁」

このように、過去との違いを示すと、変化の大きさが伝わります。

ただし、大げさな言葉だけでは長続きしません。

変える理由と、新しい顧客価値まで説明する必要があります。

シャウエッセンに学ぶべき本当のこと

シャウエッセンの焼き解禁は、長年のこだわりを捨てた事例ではありません。

通常品では、今も黄金の3分間ボイルを推奨しています。パリッとした食感を届けるという、ブランドの核も変わっていません。

一方、朝食と昼食に偏っていた消費を夕食へ広げるため、「夜味」を開発しました。

夕食に合うスパイスを設計し、その香りを引き出す方法として焼き調理を初めて推奨します。

顧客がすでに焼いていた事実を認めながら、商品として新しい価値へ作り直したのです。

その結果、夜味は初月で社内予想の3倍売れました。翌年には再発売され、焼きを推奨する商品も広がっています。

強いブランドは、何も変えないブランドではありません。

守るべき価値を理解したうえで、顧客の生活に合わせて使われ方を広げるブランドです。

シャウエッセンは、ボイルという正解を消しませんでした。

その横に、焼きという新しい正解を加えたのです。

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セールスコピーライター てらじまたくろう

高額でも御社の商品を買いたい人を特定し、集め、高値で販売し、売上に貢献するセールスコピーライター。LP、ステップメール、セールスレター、説明会台本、AI集客動画まで、売れる導線を一気通貫で設計。このブログでは、実際に売れた商品や広告を題材に、「なぜ売れたのか?」をマーケティング視点で解説しています。

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