なぜ、UCCは「飲み切れなかったコーヒー」から世界初の缶コーヒーを作ったのか?

UCCが駅でコーヒーを飲み切れなかった経験から世界初の缶コーヒーを開発したマーケティング戦略 マーケティング事例
UCCはコーヒーの味だけでなく、飲める時間と場所を変えました。

駅の売店で買ったコーヒー牛乳を、ほとんど飲めないまま返した男がいました。

当時、コーヒー牛乳は回収式の瓶に入っています。そのため、瓶を持ったまま列車へ乗ることはできません。

一口飲んだところで発車ベルが鳴り、男は大半を残したまま瓶を売店へ返しました。

その男こそ、UCCの創業者である上島忠雄です。

「もったいない」という小さな不満から、ある疑問が生まれます。

瓶を返す必要がなく、持ち運べて、好きな場所で飲めるコーヒーを作れないだろうか。

この発想をもとに、UCCは1969年4月、世界初のミルク入り缶コーヒー「UCCコーヒーミルク入り」を発売しました。現在の「UCCミルクコーヒー」です。

ただし、新しい容器へ詰めれば、すぐに売れるほど簡単な話ではありませんでした。

商品化までには、コーヒーの変色やミルクとの分離といった問題が立ちはだかります。ようやく完成しても、発売直後の売上は伸びません。

では、世界初の商品は、どのように日本の飲料文化を変えたのでしょうか。

缶コーヒーは、どんな不便から生まれたのか?

現在は、コンビニ、自動販売機、スーパーなどで、手軽にコーヒーを買えます。

一方、1960年代は、喫茶店でコーヒーを飲むスタイルが一般的でした。外出先で冷たいコーヒーを買う場合、回収式の瓶に入ったコーヒー牛乳が主流です。

瓶には、持ち運びにくいという弱点があります。

購入した場所で飲み切り、空き瓶を返さなければなりません。列車の発車時刻が迫っていても、後でゆっくり飲むことは難しかったのです。

上島忠雄が感じた不便は、決して大きな社会問題ではありません。

それでも、同じ不便を経験している人は多くいたはずです。

移動中に飲みたい。

仕事の合間に買いたい。

喫茶店へ入る時間はない。

買った場所に縛られず、自分のペースで楽しみたい。

こうした潜在的な需要へ、缶という容器が応えました。

商品開発では、大規模なアンケートから始める方法もあります。しかし、日常の中で感じた不便を深く掘り下げることで、まだ言葉になっていない需要が見つかる場合もあります。

UCCが作ろうとしたのは「缶入りの飲み物」ではなかった

上島忠雄が目指したのは、単にコーヒー牛乳の容器を変更することではありません。

UCCが掲げたのは、「いつでも、どこでも、一人でも多くの人においしいコーヒーを届けたい」という考えでした。

この目的から考えると、缶には複数の利点があります。

瓶のように返却する必要がなく、列車や車内へ持ち込めます。常温で長期間保存できれば、喫茶店から離れた場所にも流通させられます。

さらに、持ち歩けるため、購入直後に飲み切る必要もありません。

つまり、缶は単なる包装ではなく、コーヒーを飲める時間と場所を増やす仕組みでした。

商品を改善する時、多くの企業は中身へ注目します。

味を良くする。

性能を上げる。

機能を追加する。

ところが、顧客の不満は中身以外にもあります。買える場所、使える時間、持ち運びやすさ、保存方法が障害になっているかもしれません。

UCCはコーヒーそのものだけでなく、飲むまでの不便を解消しました。

缶に詰めれば完成、とはいかなかった

コーヒーとミルクを缶へ詰め、長期間保存するには技術的な問題がありました。

まず、コーヒーとミルクが分離します。高温で殺菌すると、風味も変わってしまいます。

さらに、缶に含まれる鉄イオンとコーヒーのタンニンが結びつき、液体が真っ黒に変色する問題も起きました。

そこでUCCは、製缶会社と協力します。缶の内側へ特殊なコーティングを施す技術を開発し、変色を防ぎました。専門家の協力を得ながら試行錯誤を重ね、常温保存と味の維持を両立させたのです。

ここから分かるのは、アイデアと商品化の間に大きな隔たりがあることです。

「缶に入れれば便利になる」という着想はシンプルです。

ただし、消費者が安心して購入できる流通商品へ仕上げるには、保存性、風味、安全性、容器との相性まで解決しなければなりません。

優れた発想は重要ですが、技術と運用によって再現できなければ、商品にはなりません。

1969年、世界初のミルク入り缶コーヒーが発売された

数々の問題を解決し、1969年4月に「UCCコーヒーミルク入り」が発売されました。

UCCは、この商品をレギュラーコーヒーから抽出した世界初のミルク入り缶コーヒーと説明しています。

基本コンセプトは、本格的なコーヒーへミルクをたっぷり加えた優しい味です。香料を使わず、子どもから大人まで楽しめる商品として設計されました。

現在では、缶コーヒーという言葉を聞けば、飲み方を説明されなくても理解できます。

しかし、発売当時の消費者にとっては見慣れない商品です。

コーヒーは喫茶店で飲むもの。

コーヒー牛乳は瓶に入ったもの。

缶飲料といえば別のカテゴリー。

こうした認識がある中で、新商品を一目見ただけで価値を理解してもらうのは難しかったはずです。

世界初であることは、競合がいないという利点になります。その一方で、比較対象も使用習慣もないため、市場へ説明する負担が生まれます。

世界初でも、発売直後は売れなかった

UCCの公式資料によると、発売当初の売上は、なかなか伸びませんでした。

新しい商品を作れば、自然に注目されるとは限りません。

消費者は、缶コーヒーを探していなかったからです。

まだ存在を知らない商品は、商品名で検索されません。必要性を感じていない人へ機能を説明しても、購入理由につながりにくいでしょう。

この点は、商品認知度とは?ユージン・シュワルツに学ぶ5段階の認知度で扱った考え方とも重なります。

見込み客が商品カテゴリーを知らない段階では、商品名や特徴を伝えるだけでは足りません。

どんな場面で使えるのか。

従来の商品と何が違うのか。

生活のどの不便を解消するのか。

こうした前提から伝える必要があります。

UCCも、完成した商品を店頭へ置くだけでは、市場を作れませんでした。

営業マン自身が、缶コーヒーの使い方を見せた

売上が伸びない中、UCCは販売現場で積極的な活動を始めます。

公式ブランドサイトによると、営業担当者は人目につく売店で、缶コーヒーを大声で指名買いしました。さらに、列車へ持ち込んで実際に飲む姿も見せています。

これは、単なる自作自演として片づけられない行動です。

当時の消費者は、缶コーヒーをどこで、どのように飲めばよいか知りません。

そこで営業担当者が、商品の利用場面を実演しました。

売店で買える。

列車へ持ち込める。

座席で飲める。

飲み切れなくても持ち歩ける。

言葉で便利さを説明するだけでなく、目の前で使い方を見せたのです。

新しい商品ほど、機能説明より利用場面の提示が重要になります。

顧客が使っている自分を想像できれば、商品との距離は縮まります。

大阪万博が「使ってもらう場所」になった

缶コーヒーが広がる大きなきっかけになったのが、1970年の日本万国博覧会です。

大阪万博には、国内外から多くの来場者が集まりました。広い会場を歩き回るため、手軽に購入でき、持ち運べる飲料と相性の良い環境です。

UCCは万博を機に、缶コーヒーを積極的に売り込みました。

会場で飲んだ人から好評を得ると、その後は注文が殺到します。工場が日夜生産しても、追いつかない状態になったと公式サイトは紹介しています。

なぜ、万博で反応が変わったのでしょうか。

理由の一つとして考えられるのは、商品の価値と利用環境が一致していたことです。

人が多く、移動時間も長い。

喫茶店に座るより、歩きながら手軽に飲みたい。

瓶を返却するより、好きな場所へ持っていきたい。

缶コーヒーの利点を説明されなくても、会場内で実感できました。

大阪万博は大規模な広告の場であると同時に、商品の便利さを体験してもらう巨大な実演会場だったのです。

万博で売れたのは、来場者が多かったからだけではない

大阪万博には大勢の人が集まったため、商品を置けば売れそうに見えます。

しかし、人通りの多さだけで長期的な市場は作れません。

UCCミルクコーヒーが広がったのは、イベント終了後にも使える価値があったからです。

通勤中に飲める。

休憩時間に買える。

旅行へ持っていける。

喫茶店へ入る余裕がなくても、コーヒーを楽しめる。

万博で商品を知った人は、日常生活へ戻った後も、同じ便利さを利用できます。

そのため、会場での一時的な需要が、全国からの注文へつながりました。

体験型の販売施策を行う際は、イベント中に盛り上がるだけでは不十分です。

顧客の日常へ持ち帰れる価値があるかどうかが、継続購入を左右します。

UCCが変えたのは、コーヒーの中身より「飲み方」だった

缶コーヒー誕生の本質は、コーヒーをまったく別の飲料へ変えたことではありません。

変えたのは、コーヒーとの接点です。

従来は、喫茶店へ入り、席へ座り、注文し、その場で飲む必要がありました。

缶に入れることで、販売できる場所が増えます。購入者は持ち歩けるため、飲む時間も自由に選べます。

つまり、UCCは次の変化を生みました。

喫茶店で飲むコーヒーから、移動中にも飲めるコーヒーへ。

店内で提供されるコーヒーから、流通商品として買えるコーヒーへ。

買った場所で飲み切るコーヒーから、好きな場所へ持ち運べるコーヒーへ。

この変化によって、コーヒーを飲む回数と場面が増えました。

マーケティングでは、新しい顧客を探すことばかり考えがちです。

しかし、既存の商品を使える時間や場所を増やすことでも、市場は拡大します。

容器は、商品価値の一部である

容器は、中身を守るためだけに存在すると思われがちです。

ところが、UCCの事例では、容器を変えたことで商品の価値が変わりました。

缶は、常温での長期保存を可能にします。

持ち運べるため、購入後の自由度も高まります。

広い地域へ流通させられるようになり、売店や自動販売機といった販路にも対応できます。

同じコーヒーでも、瓶、紙カップ、缶、ペットボトルでは、買う場所と飲む場面が変わります。

そのため、包装や提供方法は、マーケティング戦略と切り離せません。

サービス業でも同じことが言えます。

対面でしか提供できなかった相談を、オンライン面談へ変える。

長時間の研修を、短い動画へ分ける。

個別対応だけだったサービスへ、診断ツールを加える。

中身を大きく変えなくても、届け方を変えることで利用できる顧客や場面が増えます。

赤・白・茶色のパッケージには意味がある

UCCミルクコーヒーといえば、赤・白・茶色の3色が印象的です。

茶色は焙煎したコーヒー豆、白はコーヒーの花、赤は熟したコーヒーの実を表しています。

この配色は長く使われ、ブランドを見分ける重要な要素になりました。

2019年には、3色の組み合わせが「色彩のみからなる商標」として特許庁へ登録されています。食品業界では初の登録でした。

発売当初は、缶コーヒーというカテゴリー自体が知られていません。

そのため、繰り返し購入してもらうには、売り場で簡単に見つけられる目印が必要です。

商品名を読まなくても、色で思い出せる。

遠くから見ても、UCCの商品だと分かる。

こうした識別の積み重ねが、ロングセラーを支えます。

パッケージは、商品の説明書であると同時に、売り場で働き続ける広告でもあるのです。

ロングセラーになっても、同じままではなかった

UCCミルクコーヒーは、1969年の発売後、時代に合わせて味やパッケージを見直してきました。

2019年には誕生50周年を迎え、10代目の商品へリニューアルされています。

一方で、赤・白・茶色の基本配色や、ミルク感のある優しい味という中心的なイメージは維持されました。

さらに2026年には、カフェインレスコーヒーを使ったパウダータイプも発売されています。親子のカフェタイムや、子どものコーヒーデビューという新しい場面を提案する商品です。

ロングセラーは、何も変えないことで続くわけではありません。

覚えられている要素を残しながら、時代の変化に合わせて利用場面を追加しています。

守る部分と変える部分を分けることが、長く選ばれるブランドには欠かせません。

累計150億本以上。小さな不便が巨大市場へ変わった

UCC公式ブランドサイトによると、UCCミルクコーヒーの累計販売本数は約150億本を超えています。

駅で飲み残した一瓶から始まった発想が、半世紀以上続くブランドへ成長しました。

ただし、「不便を見つければ150億本売れる」という単純な話ではありません。

UCCは、持ち運べるという発想を得た後、長期保存や品質保持の問題を解決しました。発売後に売れなければ、営業担当者が利用場面を自ら見せています。

さらに、大阪万博という体験機会を活用し、認知を全国へ広げました。

小さな着想を、技術、商品、流通、営業、体験へつなげたからこそ、市場を作れたのです。

ポカリスエットとの共通点

UCCミルクコーヒーとポカリスエットには、興味深い共通点があります。

どちらも、発売しただけではすぐに価値を理解されませんでした。

ポカリスエットは、「汗をかいた後に水分とイオンを補う」という飲用場面を伝えました。

UCCは、「移動中や外出先でもコーヒーを飲める」という場面を見せています。

両社とも、商品説明だけで市場を作ったわけではありません。

実際に使えば便利さが分かる場所で、体験を増やしています。

新しいカテゴリーを広げるには、商品名を覚えてもらうだけでは足りません。

どのような時に使うのかを理解してもらい、その場面で価値を実感してもらう必要があります。

Trader Joe’sとの共通点

なぜ、Trader Joe’sはCMゼロでも熱狂的に売れるのか?では、商品や店舗体験が広告の役割を担う仕組みを解説しました。

UCCの営業活動にも、同じ考え方が見られます。

列車内で営業担当者が缶コーヒーを飲めば、その姿が商品の説明になります。

売店で指名買いすれば、周囲の人は商品名を耳にします。

大阪万博で実際に飲んでもらえば、持ち運べる便利さまで理解されます。

広告で「いつでもどこでも飲めます」と伝えるだけではなく、利用している場面そのものを見せたのです。

あなたのビジネスにどう応用するか?

UCCと同じように、新しい飲料市場を作る必要はありません。

応用すべきなのは、顧客が商品を使う前後に感じている不便へ目を向けることです。

商品の中身以外の不便を探す

品質に問題がなくても、売れにくい商品はあります。

購入に時間がかかる。

持ち運びにくい。

予約できる時間が限られる。

使い始めるまでの設定が難しい。

説明を受けるために来店しなければならない。

こうした不便が、購入を止めているかもしれません。

商品そのものを改良する前に、選ぶ、買う、受け取る、使う、保管する流れを確認します。

UCCはコーヒーの味だけでなく、瓶を返さなければならない不便へ着目しました。

利用できる時間と場所を増やす

売上を増やす方法は、顧客数を増やすことだけではありません。

既存顧客が使える場面を増やす方法もあります。

対面サービスをオンラインでも受けられるようにする。

パソコン用の機能をスマートフォンでも使えるようにする。

一度に学ぶ講座を、短時間で進められる教材へ変える。

法人向けの商品を、個人でも購入できる量へ小分けする。

使用場面が増えれば、同じ顧客から選ばれる回数も増える可能性があります。

顧客に使い方を実演する

新しいサービスは、文章だけで説明しても伝わりにくいものです。

そこで、実際に使う場面を見せます。

動画で操作を実演する。

セミナー内で診断を体験してもらう。

利用前と利用後の時間を比較する。

購入者がどのような場面で使っているかを紹介する。

機能を説明するより、生活や仕事の中で使っている姿を見せた方が、必要性を想像しやすくなります。

商品価値が伝わる場所を選ぶ

UCCにとって、大阪万博は人が多いだけの場所ではありませんでした。

広い会場を歩き、手軽な飲み物が必要になる環境です。缶コーヒーの価値を体験しやすい場所でした。

無料体験や広告を出す場合も、人数だけで場所を選ばないようにします。

見込み客が問題を強く感じる時はいつか。

どこなら商品の便利さを実感できるか。

体験後に、日常で継続利用できるか。

この条件がそろう場所ほど、商品の理解が深まります。

世界初より、分かりやすい価値を伝える

「業界初」「日本初」「世界初」は、注目を集める言葉です。

しかし、初めてであることだけでは、購入理由になりません。

UCCミルクコーヒーの価値は、世界初という記録だけではありません。

瓶を返さなくてよい。

持ち運べる。

常温で保存できる。

移動中にも飲める。

顧客の日常にとって分かりやすい利点がありました。

新規性を訴える時も、それによって顧客の何が楽になるのかまで伝える必要があります。

UCCに学ぶべき本当のこと

UCC缶コーヒーの誕生は、天才的なひらめきだけで成功した物語ではありません。

出発点は、駅でコーヒーを飲み切れなかった小さな不満でした。

そこから、持ち運べて、長く保存でき、好きな場所で飲める商品を構想します。開発では、ミルクの分離、風味の変化、缶とコーヒーの反応という問題を解決しました。

それでも発売直後は売れません。

そこで営業担当者が利用場面を見せ、大阪万博で多くの人へ体験してもらいました。

UCCが作ったのは、缶という新しい容器だけではありません。

喫茶店へ行かなくても、移動中や仕事の合間にコーヒーを楽しめる習慣です。

商品が売れない時は、中身を変えることだけが答えとは限りません。

届け方、使える場所、購入後の自由度を変えることで、市場が広がる場合もあります。

UCCの事例は、小さな不便を見逃さず、商品化と市場教育までやり切る大切さを教えてくれます。

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この記事を書いた人

   

セールスコピーライター てらじまたくろう

高額でも御社の商品を買いたい人を特定し、集め、高値で販売し、売上に貢献するセールスコピーライター。LP、ステップメール、セールスレター、説明会台本、AI集客動画まで、売れる導線を一気通貫で設計。このブログでは、実際に売れた商品や広告を題材に、「なぜ売れたのか?」をマーケティング視点で解説しています。

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