なぜ、ポカリスエットは「まずい」と言われても売り続けたのか?

ポカリスエットが発売当初の不評から3000万本の無料試飲で使用場面を伝えたマーケティング戦略 Uncategorized
ポカリスエットは、汗をかいた時に飲む体験を通して商品の価値を伝えました。

発売前の社内試飲で、「はっきり言ってまずい」「これでは売れない」と反対された飲料があります。

1980年4月に発売されたポカリスエットです。

販売開始後も、厳しい評価が続きました。営業担当者が販売店を回っても、「こんな味で本当に売れるのか」と疑われます。そのため、なかなか店頭へ置いてもらえませんでした。

イベント会場で直接販売すると、消費者からも不満が出ます。「味が薄い」「これでお金を取るの?」と言われました。なかには、飲みかけを営業担当者へかけた人までいたと、公式の誕生秘話に記録されています。

普通なら、味を濃くするか、販売を縮小する場面です。

ところが、大塚製薬は別の方法を選びました。汗をかく場所へ社員が出向き、実際に飲んでもらったのです。

その活動は小規模な試飲会で終わりませんでした。公式サイトの見出しには、「歩いて配って3000万本」と明記されています。

なぜ、売れない飲料をそこまで配り続けたのでしょうか。

背景をたどると、単なる根性論とは違う判断が見えてきます。

ポカリスエットは、どんな問題から生まれたのか?

ポカリスエット開発のきっかけは、メキシコへの出張でした。

大塚製薬の技術部長が現地で腹をこわし、入院した時のことです。医師は、水分を補うために炭酸飲料を渡しました。その際、技術部長は「水分と栄養を同時に補える飲み物があればいい」と考えます。

さらに、手術後の医師が栄養補給のために点滴液を飲む姿も目にしました。点滴液の製造は大塚製薬の得意分野です。そこで、「飲む点滴液」という新しい飲料の着想が生まれました。

ただし、開発チームは点滴液を甘くして売ろうとしたわけではありません。

時代は健康志向へ向かい、ジョギングも広がり始めていました。そこで、医療現場だけでなく、日常生活の中で飲める健康飲料を目指します。

研究の出発点になったのは、汗です。

人が汗をかくと、水分だけでなく電解質も失われます。そのため、失われた成分を手軽に補える「汗の飲料」を作ろうと考えました。

現在、公式サイトでは、ポカリスエットを発汗で失われた水分とイオンを補給する健康飲料と説明しています。体液に近い成分を適切な濃度で含み、さまざまな場面での水分補給に適した設計です。

開発チームが考えたのは、「どんな味ならジュース市場で売れるか」ではありませんでした。

「汗をかいた身体には、どんな飲み物が必要か」という問題から商品を設計したのです。

試作品は1000種類以上。なぜ独特の味になったのか?

身体に必要な成分を入れれば、自然においしくなるわけではありません。

汗の成分を参考にした初期の試作品は、苦みが強い飲料でした。そこで、成分を大きく変えずに苦みを抑える研究が続きます。

甘すぎず、のどを通りやすい味も必要でした。試行錯誤の末、試作品は1000種類を超えます。

その中で見つかったのが、柑橘系果汁との組み合わせでした。柑橘系の苦みを使うことで、飲料の不快な苦みを目立ちにくくしたのです。

やがて、候補は二つに絞られました。

一つは糖質濃度が高く、研究室で飲むとおいしく感じる濃いタイプです。もう一つは甘さが控えめで、室内では物足りなく感じる薄いタイプでした。

研究員の多くは、濃いタイプを支持します。

そこで技術部長は、研究員を山へ連れて行きました。山頂まで歩き、汗をかいた状態で二つの試作品を飲み比べてもらいます。

すると、研究室とは反対の評価が出ました。

薄いタイプは、さっぱりして飲みやすい。一方、濃いタイプは甘すぎると感じられました。

開発しているのは、汗をかいた時に飲む商品です。そのため、平常時の一口目よりも、発汗後に飲み続けやすい味が重視されました。

この試験は、後の販売戦略にもつながります。

ポカリスエットの価値は、商品だけを机の上で試しても伝わりにくいものでした。汗をかいた状態で飲んだ時に、設計の意図が理解されやすくなります。

なぜ、発売当初は受け入れられなかったのか?

1980年当時の消費者にとって、ポカリスエットは分類しにくい商品でした。

ジュースなら、分かりやすい甘さが期待されます。炭酸飲料には刺激があり、お茶や水は日常の飲み物として定着していました。

ところが、ポカリスエットは甘さが控えめです。既存のジュースとも、水やお茶とも違います。

さらに、「汗をかいたら水分と電解質を補う」という考え方も、広く定着していませんでした。

商品の価値を判断する基準が、市場側にまだなかったのです。

この状況は、ユージン・シュワルツの認知度理論で考えると分かりやすくなります。

商品認知度とは?ユージン・シュワルツに学ぶ5段階の認知度でも解説した通り、見込み客が問題や解決策を知らない段階では、商品説明だけで購入へ進んでもらうのは難しくなります。

当時の消費者は、イオン飲料を探していたわけではありません。

汗で電解質が失われるという問題も、その対策となる飲料も、十分には認識されていませんでした。

その状態で味だけを評価すれば、「薄い」「何のための飲み物か分からない」という反応になるのは自然です。

つまり、売れなかった原因は味だけにあったのではありません。

飲む目的と場面が理解されていなかったことも、大きな要因でした。

なぜ、味を変えずに体験者を増やしたのか?

消費者から「味が薄い」と言われれば、甘さを強くする選択肢もあります。

それでも大塚製薬が味を安易に変えなかったのは、発汗後に飲むと評価が変わることを確認していたからです。

研究室では不評だった薄いタイプが、山頂では支持されました。

したがって、問題は商品だけでなく、試してもらう状況にもあると考えられます。

そこで打ち出されたのが、「サンプリング無制限」という方針でした。

販売店へ置いてもらうことだけを目指さず、社員が消費者のいる場所へ向かいます。汗をかきやすい場面で試してもらい、商品の目的も説明しました。

公式の誕生秘話は、発売初年度の活動を「歩いて配って3000万本」と紹介しています。

この無料配布には、明確な狙いがありました。

単に認知度を上げるだけなら、どこで配っても構いません。しかし、ポカリスエットは飲む場面によって評価が変わる商品です。

そのため、価値が伝わりやすい状態で体験してもらう必要がありました。

「汗をかいた後に飲むもの」という習慣を広めた

ポカリスエットの販売活動で重要だったのは、商品と使用場面を結びつけたことです。

汗をかいて喉が渇いた状態なら、控えめな甘さが飲みやすく感じられます。さらに、水分と電解質を補う理由を知れば、独特の味にも意味が生まれます。

ここでは、知識と体験がセットになっています。

説明だけでは、難しい健康情報に見えるかもしれません。反対に、試飲だけでは「無料でもらった変わった飲料」で終わる可能性があります。

そこで、なぜ必要なのかを説明しながら、実際に飲んでもらいました。

すると、消費者は味だけでなく、使用目的まで理解できます。

1980年の発売後も活動は続きました。公式の歴史では、1987年4月に累計販売本数30億本へ到達したことが確認できます。

ポカリスエットは、飲料を店頭へ置くだけで市場を作ったのではありません。

「汗をかいた時に、水分とイオンを補う」という新しい習慣を、時間をかけて広めました。

既存の味覚競争ではなく、新しい基準を作った

発売当時の飲料市場には、ジュースや炭酸飲料などが存在していました。

その中で「もっと甘い」「もっと刺激が強い」と競えば、既存の基準で比較されます。

しかし、ポカリスエットは別の基準を提示しました。

味の濃さではなく、汗をかいた後の飲みやすさ。嗜好性だけでなく、水分とイオンを補給するという機能です。

既存商品と同じ土俵で戦わず、イオン飲料という新しい見方を広めました。

新しいカテゴリーには、大きな可能性があります。その一方で、消費者に理解してもらうまで時間がかかります。

比較対象がないため、「何の商品なのか」がすぐには伝わらないからです。

ただし、使う理由が浸透すれば、価格や味だけで比べられにくくなります。

これは、単に競合より優れた商品を作る方法とは異なります。

商品を評価する基準そのものを作る戦略です。

なぜ「ポカリスエット」という名前にしたのか?

現在では聞き慣れた名前ですが、発売当時はかなり異質だったはずです。

「スエット」は、英語で汗を意味します。

公式の誕生秘話によると、「汗の飲料」という開発コンセプトを伝えやすくするため、商品名にスエットが使われました。

一方、「ポカリ」は、さわやかな青空を連想させる響きと、語呂の良さを重視して加えられた言葉です。

公式サイトでは、後から調べると、ポカリがネパール語で湖を意味したとも紹介されています。ただし、最初からその意味を狙って命名したわけではありません。

商品名に汗を意味する言葉を入れると、飲料として違和感を持たれる可能性があります。

それでも、名前と開発コンセプトはつながっていました。

一般的な清涼飲料のような名前に埋もれず、説明を聞くと商品の目的が理解できる設計になっています。

変わった名前だけをまねしても、同じ効果は得られません。

違和感のある言葉と、商品が提供する価値が結びついていることが重要です。

なぜ、食品では珍しかった青色を使ったのか?

ポカリスエットの青と白は、現在もブランドを象徴するデザインです。

公式の誕生秘話によると、鮮やかな青と白い波形は、「水と電解質の補給と吸収スピード」という商品の本質を表現するために作られました。

ところが、発売当時の飲料業界では、青は食品に使いにくい色でした。「オイル缶のようだ」と言われたこともあったそうです。

それでも、商品のコンセプトを表すことを優先し、青いデザインが採用されました。

このデザインには、店頭で目立つ以上の役割があります。

青は水や清涼感を連想させます。白い波形は、流れや水分補給の印象を作ります。

味だけでは目的が伝わりにくい商品だからこそ、パッケージにも説明の役割を持たせたと考えられます。

なぜ、オールドスパイスは“おじさんの匂い”から若者に売れるブランドになったのか?でも、商品の機能だけでなく、見せ方がブランドの認識を変えた事例を紹介しました。

ポカリスエットでも、名前とパッケージが重要なコピーとして働いています。

ポカリスエットが売ったのは、飲料だけではなく使用場面だった

ここまでの流れを見ると、ポカリスエットの戦略で特に重要な点が分かります。

大塚製薬は、商品の成分や味だけを説明したのではありません。

「汗をかいた時に飲む」という使用場面を示しました。

発売当初の消費者は、一口飲んだ味だけで商品を評価します。

しかし、運動後や暑い場所で飲めば、甘さを抑えた設計が生きます。水分とイオンを補う意味を知れば、味に理由も生まれます。

商品は同じでも、使う場面と前提知識によって評価が変わったのです。

この考え方は、さまざまなビジネスに応用できます。

「高性能な分析ツールです」と説明するだけでは、必要性が伝わらないかもしれません。

一方、「複数の時間足を切り替えて確認する負担を減らしたい時に使う」と伝えれば、使用場面が浮かびます。

「コピーライティング講座です」だけでは、ほかの講座との違いが分かりません。

そこで、「商品の特徴を書いても問い合わせが来ない時に、訴求を組み直す講座」と示します。

使用場面が見えると、商品は「いつか使えるもの」から「今の問題に必要なもの」へ変わります。

売れない時に商品を変えるべきか、市場を教育すべきか

ポカリスエットの事例を表面的に見ると、売れなくても信じて続ければ成功するように感じられます。

しかし、実務では慎重な判断が必要です。

大塚製薬には、味を維持する根拠がありました。

1000種類を超える試作を重ねています。さらに、汗をかいた状態で比較試験を行い、薄いタイプの方が飲みやすいことも確認しました。

つまり、経営者の思い込みだけで売り続けたわけではありません。

商品が価値を発揮する条件を検証したうえで、市場側の理解不足を埋める活動を行っています。

市場教育を検討する際は、次の点を確認する必要があります。

商品が特定の場面で明確な価値を発揮するか。体験した人が違いを理解できるか。継続購入や好意的な反応が生まれているか。

さらに、教育に必要な時間と資金も欠かせません。

体験後も満足されないなら、説明不足ではなく、商品自体に問題がある可能性があります。

市場教育と独りよがりの境目は、実際の顧客反応にあります。

3000万本の無料配布は、値引き施策ではなかった

ポカリスエットの3000万本配布は、規模だけでも目を引きます。

ただし、本質は価格を無料にしたことではありません。

商品価値が伝わる状態で、体験してもらったことにあります。

駅前で無差別に配れば、多くの人へ商品を渡せます。しかし、喉も渇いておらず、飲む目的も分からなければ、強い体験にはなりません。

ポカリスエットは、汗をかいた後に飲むという場面と結びつけました。

そのうえで、水分と電解質を補う考え方も伝えます。

つまり、無料配布が商品のデモンストレーションになっていたのです。

なぜ、Trader Joe’sはCMゼロでも熱狂的に売れるのか?でも、商品や店舗体験そのものが広告の役割を果たす戦略を解説しました。

ポカリスエットも、広告で「おいしい」と主張するだけではありません。

実際に飲んだ経験を、販売促進へ変えています。

あなたのビジネスにどう応用するか?

ポカリスエットと同じ規模で商品を配る必要はありません。

応用すべきなのは、見込み客が価値を理解できる状況を設計する考え方です。

商品より先に、使う場面を見せる

商品名や機能から説明すると、見込み客は自分との関係を判断しにくくなります。

そこで、最初に使う場面を示します。

税理士なら、「税務相談を受け付けています」だけでは広すぎます。

「決算直前になっても利益額と納税額が分からない時に、最初に整理する項目」と伝えれば、必要な場面が見えます。

コピー講座なら、「セールスコピーを学べます」よりも、具体的な状況を示した方が伝わります。

「商品の特徴を書いているのに反応がなく、何を訴求すればいいか分からない時に使う設計法」と説明します。

説明だけでなく、小さく体験してもらう

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この記事を書いた人

   

セールスコピーライター てらじまたくろう

高額でも御社の商品を買いたい人を特定し、集め、高値で販売し、売上に貢献するセールスコピーライター。LP、ステップメール、セールスレター、説明会台本、AI集客動画まで、売れる導線を一気通貫で設計。このブログでは、実際に売れた商品や広告を題材に、「なぜ売れたのか?」をマーケティング視点で解説しています。

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